映画と本の『たんぽぽ館』

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「蜩ノ記」 葉室麟

2012年11月17日 | 本(その他)
凛として美しい魂

蜩ノ記
葉室 麟
祥伝社


            * * * * * * * * *

はむりんの 第146回直木賞受賞作品。
葉室麟さんを"はむりん"と言うとなんだか急に親しみが湧いてしまい、
勝手に気を良くして読んでみました。


戸田秋谷は7年前、前藩主の側室と不義密通を犯したということで、
家譜編纂と10年後の切腹を命じられ、山村に幽閉されています。
そこを訪れたのが壇野庄三郎。
彼には秋谷の編纂補助と監視という任務が与えられています。
庄三郎はこの村で秋谷と生活を共にするうちに、
彼の清廉さに触れ、その無実を信じるようになります。
そして庄三郎は7年前の事件の真相にたどり着いていく・・・。


"武士"のあるべき姿、
正しいと思う道ならば、自らの命を失うことも辞さないという清廉さ
・・・そういうものに心打たれます。
現代でもますます時代小説が好んで読まれている秘密は、
こんなところにありそうです。
もし、現代が舞台で、このような人物が描かれていたりすると、
美しいとは思いますが、あまりにも作り事めいて感じてしまうかも知れません。
けれども時代を江戸時代とし、武士を登場させることによって、
私たちはこのような人物に
憧れをも加味したリアリティを感じることができる気がします。
でも今作は、武士だけがこのように美しく強い魂を持っているのではありません。
秋谷の息子・郁太郎の友として源吉という農民の子が登場するのですが、
この子の魂のなんと高潔なこと・・・。
友を思い家族を思い、決して弱音を吐かない・・・。
眩しいほどの魂の輝きに、感動。

人間の卑小さ、己の不甲斐なさを題材とするのも小説ですが、
このようにストレートに凛として美しく強い魂を描くのもまた小説。
こうしたものにすなおに感動できる気持ちを大事にしたいですね。

「蜩ノ記」葉室麟 祥伝社
満足度★★★★☆