映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「赤い月、廃駅の上に」 有栖川有栖

2012年11月13日 | 本(その他)
列車で向かう死出の旅

赤い月、廃駅の上に (角川文庫)
有栖川 有栖
角川書店(角川グループパブリッシング)


            * * * * * * * * *

ミステリ作家有栖川有栖氏は、鉄道ファンとしても知られていますが、
この本は、ミステリ、つまり推理小説ではなく、
鉄道にまつわるちょっと怖い短篇集です。


異国のローカル列車で、いつまでも列車に揺られながら、のんびり旅をしたい
・・・などと時々思ったりしますが、
とんでもない・・・!と思えるのが
「密林の奥へ」
男は、言葉もろくに通じない異国で、
密林の奥地に珍しい鳥がいると聞き、ふと訪ねてみようと思う。
列車の運行状況は極めて悪く、いつ来るのやら、いつつくのやらも定かでないが、
とりあえずそちらへ向かう列車を待って乗り込む。
密林のなかを列車はのろのろと進むけれど、
一向に乗り換えるべき駅につかない。
・・・こんな感じで幾日も列車に乗り続け、時には乗り換えて、
自分のいる位置もわからなくなって・・・。
なんとも心もとなく薄ら寒い気がしてきます。
そもそもこんなジャングルの奥地になぜそんなにも線路が続いているのか???
と疑問が湧いてきますが、ちゃんと答えはあるのです。
幻想的な作品でした。



「テツの百物語」
百物語、というのはよくありますが、これは鉄道にまつわる百物語。
ある夜テツすなわち鉄道愛好家を自負する5人が
鉄道にまつわる百物語を始めます。
怖い話・・・、ちょっと不思議な話。
もしかしたら考えすぎ、何かの勘違い。
そういう物も含めて一つ一つ話が語られて・・・。
さて、夜中の12時、
最後のろうそくを吹き消したそのときに、何が起こるのでしょう?



列車で死出の旅に向かう・・・そんなイメージも多いのです。
「黒い車掌」
乗り合わせた列車で懐かしい人に次々巡りあう梢子。
幼馴染の子、憧れていた先生、
お母さん、お父さん、かつての恋人。
それも知り合った当時のままの姿で。
今にこの列車で何かが起こる、自分の命をなくす何かが・・・。
そのように確信を深めていく梢子ですが・・・。



「最果ての鉄道」
こちらはズバリ、この世で生命を全うした皆さんが、
あの世へ行くために乗り合わせた列車。
三途の川に架けられた鉄橋を、列車が行きます。
もしこの列車を途中で降りることが出来れば、
生き返ることができるというのですが・・・。


特に鉄道ファンでないとしても、なかなか味わい深い一冊であります。


「赤い月、廃駅の上に」有栖川有栖 角川文庫
満足度★★★★☆