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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「夜の光」坂木司

2011年11月17日 | 本(ミステリ)
星の下に集う、心優しき戦士たち

夜の光 (新潮文庫)
坂木 司
新潮社


                  * * * * * * * *

とある地方都市の高校の天文部。
部員は3年の4名。
彼・彼女たちは、自らのミッションを胸の奥底に秘め、
なにげなく高校生活を送るというスパイ生活を送っているのです。

というと、何やら怪しげでしょうか。
たとえば、中島翠=(コードネーム)ジョー。
彼女は学問と向かい合うことが素直に好きなのですが、
家族は"女には学問などいらない、さっさとお嫁に行けばそれでいい"と考える人たち。
そのため、塾へも行かせてもらえず、
学校の授業だけですべてをマスターし、
意地でも東京の大学に受かってやろうと心に決めているのです。
こんな風に、それぞれが外向きは自分を偽りながらも、
密かに自らの目指す方向へ着々と準備を進めている。
そんな自分たちを、彼らはスパイと称しているわけです。


彼らが自分をさらけ出すのは、この天文部の仲間うちのみ。
特別に仲がいいというわけでもないのです。
でも、ほぼ月一回の星の観測会で、
互いに寄り添いつつ、ただ星を眺めながらぼんやり過ごす。
それが戦士の休息であり、彼らの絆となっているのです。


ストーリーは、彼ら4人が順番に語り手となり、
季節が廻って行って、卒業となります。
そして最後の一話は、また語り手が一番手のジョーに戻りますが、これは卒業の約一年後。
つまり、彼らそれぞれのミッションはどうなったのか、
それをうかがい知ることができるというしゃれた構成です。


彼らそれぞれ個性あふれる存在で、ついそちらのほうに気を取られてしまうのですが、
これは坂木司作品ですので、
もちろん、それぞれのストーリーの中に日常の謎がちりばめられています。
彼らがその謎を解き明かしていくのも、もたつきがなく小気味よい。


特に、彼らの会話がいいですね。
ゲージこと青山君は、
「大声で明るく喋り倒しているのに、人気者。
冗談ばかり言っているのに、頭が悪そうにも見えない。
そして、子供みたいに楽しげなのにきっちり大人」
というのを理想としているのです。
テレビのキャラクター(大泥棒)がモデルというのは
・・・そうか、ルパン三世!! 
それで、彼は女の子に話しかけた後に、
「ベイベー」とか「ハニー」などとキザな呼びかけを挟み込むのですが、
前述のジョーが、いちいちそれに反応して
「私はあなたの子供ではないし、恋人でもない」
と、返したりします。


現実は家族のしがらみの中で、押しつぶされそうになっている彼らなのですが、
若いっていいなあ…と、おばさんはつい思ってしまいます。
しなやかにスパイのふりをして、やり過ごし、
そして自分の道を歩もうとする。
ステキな青春小説+日常の謎本格ミステリでした。


「夜の光」坂木司 新潮文庫
満足★★★★☆