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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「少年少女飛行倶楽部」加納朋子

2011年11月07日 | 本(その他)
空を飛ぶ・・・! 彼女たちのミッション

少年少女飛行倶楽部 (文春文庫)
加納 朋子
文藝春秋


               * * * * * * * * * *

加納朋子作品ですが、これはミステリではありません。
青春小説。
中学一年の海月(みづき)は、幼なじみの樹絵里に誘われ「飛行クラブ」に入りました。
中学生のクラブで飛行クラブ? 
何をするクラブかと言えば

1 あくまでも「自分自身が」飛行することを旨とする。

2 当然ながら、「落下」は「飛行」ではない。

3 航空機やヘリコプターなどでの飛行は除外される。

4 究極的には、理想を言えばピーター・パンの飛行がベストである。

それでも良く解らない。
このクラブは2年の部長、神(じん)が、
ただ自分がやりたいという思いで、強引に立ち上げたものだったのです。
しかし、この部長の変人ぶりには、海月もあきれかえってしまう。
高飛車で強引で、空気は読めない。
あんた何様!カミサマ・・・。
でも、このカミサマ部長に、足が不自由でやや知的障害もある非常に可愛い姉、「エンゼ」がいることを知ったあたりから、
海月は、部長の「飛びたい」気持ちに同調していきます。
これは海月が、飛行クラブを成功させるための悪戦苦闘の物語。
そしてほんのり初恋の物語でもあります。


ここの部員の名前がそれぞれにとてもユニークです。
まずこの当の海月ですが、
きれいな名前ですが、これって「クラゲ」のことですね。

部長の「神」。
ジンと読めば普通ですが、この字を当てるのはかなり思い切っています。
この名前にはなかなかキツイいわれがあります。

海月の友人、樹絵里=ジュエリー。
その名の通り、きらきらヒラヒラ、正に女の子っぽいのですが、
どうも何もかも海月に頼りっぱなしのところが・・・。

副部長は神の幼なじみの海星(カイセイ)。
これも普通のようでいて、実はヒトデとも読める。
野球部と掛け持ちのイガグリ頭ですが、クラブの中では唯一まとも? 
明るくさわやかな好青年。(好少年?)

海星にスカウトされて入った球児くんは、
親の期待で本人の意志を無視され野球部に入れられたのですが、
実は運動が大の苦手で、苦しくてたまらない。
このクラブでようやく解放されてホッとしていますが、
おとなしくて、しばしば存在を忘れられてしまう。

飛びきり変わった名前は「朋」で、これは「るなるな」と読みます。
月がルナで、月がふたつだから、るなるな。
高所平気症!(恐怖症じゃなくて!!)

そして、最後に加わったのは、まあ、普通の名前の子なんですが、
海月は密かに「イライザ」と呼んでいます。
彼女も小学校時代からの付き合いですが、
とても意地悪で、何かというと人に嫌がらせをしたり、皆の間で悪口を振りまいたりする、海月が最も嫌いなタイプ。
昔の少女漫画の意地悪なお嬢様役がイライザという名前だったと母に聴き、
そんなあだ名を密かに付けました。

近頃、特に読みにくい子どもの名前が多いですが、
読みにくい名前ほど親からの「呪縛」が強い、なんていう一文もありまして、はっとさせられます。


さてこんなあまり頼りにならなさそうなメンバーなのですが、飛ぶために見つけた方法は熱気球。
果たして彼らは空を飛べるのでしょうか?!

全般に、会話が歯切れよく愉快です。
この海月さんは、直接口には出さずとも、心の中では結構ツッコミ体質。
思わず笑ってしまうところも多々です。
まとまりのなさそうな面々が、心を一つに目標に向かっていく。
そんな中で、それぞれの個性を発揮しながら成長していく。
正にすがすがしいドラマなのでした。

「少年少女非行倶楽部」 加納朋子 文春文庫
満足度 ★★★★★