映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

奇跡

2011年06月13日 | 映画(か行)
新幹線と桜島と冒険の旅



         * * * * * * * *

是枝監督作品で、出演があのお笑いコンビ“まえだまえだ”ということで、
楽しみにしていました。


舞台は九州。
関西弁の二人が何故に九州?ということなのですが、
この作品は九州の新幹線全線開通に絡んだ話なので・・・。

両親の離婚のため、大阪に住んでいた家族四人が二手に別れ、
母(大塚寧々)と兄、航一(前田航基)が鹿児島の母の実家に、
父(オダギリジョー)と弟、龍之介(前田旺志郎)が福岡に暮らしているのです。
けれど航一は、また家族四人で暮らしたい。
ある日、
「上りと下りの新幹線さくらの一番列車がすれ違うところを目撃すれば、
奇跡が起きて願いが叶う」
という噂を聞いて、是非見たいと思うのです。
兄と弟はそれぞれ友達と共に合流地に向かい、
新幹線のすれ違い地点を探します。

子供たちの冒険の旅。
ちょっぴり「スタンド・バイ・ミー」にも似て、
冷や冷やもののこの旅で、
子供たちはそれぞれ大きく成長するのです。


この兄弟の息の合うのは当然といえば当然ですが、
それぞれの個性があって、
すばらしい効果が出ていますね。

兄はちょっと慎重なタイプで、ナイーブ。
いきなり朝、部屋の拭き掃除を始めるシーンがあって「???」と思うのですが、
これは桜島の灰が家の中にまで入りこむのが嫌で嫌で、
自主的にぞうきんがけをしているのです。
彼の願いは桜島が大爆発を起こして鹿児島には住めなくなり、
大阪に戻って家族四人で暮らすという壮大(?)なもの。



一方、弟の方は、とてもポジティブで明るく元気。
彼はミュージシャンを目指すうだつの上がらない父の面倒を見るために
父親についてきたように見えるのですが・・・。

彼はまた、現実的でもあります。
どうしても元のように暮らしたいとは思っていないのですね。
でも、兄の気持ちを汲んで奇跡を呼ぶ旅に付き合う。
子供といっても単に無邪気というわけではなくて、
それぞれに悩みもあるし、
人の気持ちを汲む力もある。
そしてまた、夢もあるところがいいじゃないですか。
それぞれの子供たちが夢を語るシーンは多分、フリートークなんですね。
照れがちに自分のことを語る子供たちの笑顔がいい。

多分子供たちは、新幹線の交差を見たからといって、
必ず夢が叶うとは信じていなかったようにも思えるのです。
でも、自分たちだけでこの旅をやり遂げて目的を果たした、
という満足感が彼らを満たしたのですね。
だから、結果にはそんなにこだわらないところがいいと、私は思いました。


子供たちの冒険を知りつつ、そっと見守る大人たちもまたいいですね。
具合が悪いふりをして保健室にやって来た子供たちに、
体温計のごまかし方を伝授する保健の先生とか。
帰ってくるのをそっと家の外で待っていたおじいさんとか。
このおじいさんは、以前和菓子屋さんを営んでいて、
店を閉めて何年かになるのです。
でも商店街の人に新幹線開通にちなんで何かこの辺の名物ができないかと相談を受け、
またお菓子を作り始めるのです。
“かるかん”というのが鹿児島名物。
ふむ、聞いたことはありますが、食べたことはありません。
ふんわりと甘そうで、是非食べてみたくなってしまいました。



以前からまえだまえだを見ていると、
この二人がいたら、家の中はいつもものすごく賑やかなんだろうなあ・・・と、
つい微笑ましくおもえていました。
でも、この作品で、また少し違う航基くんを見ることができて幸いでした。
何とも満足のいく作品。
やっぱり、私としては「空気人形」のようなものよりは、こちらの方が好きです。

「奇跡」
2011年/日本/127分
監督・脚本:是枝裕和
出演:前田航基、前田旺志郎、オダギリジョー、大塚寧々、樹木希林、阿部寛