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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「謎解きはディナーのあとで」 東川篤哉

2011年05月13日 | 本(ミステリ)
本格推理の王道でありつつ、たっぷり楽しめる

謎解きはディナーのあとで
東川 篤哉
小学館


           * * * * * * * *

この本、今書店の店頭をにぎわしていますね。
2011年本屋大賞受賞作。

このストーリーのヒロインは、刑事宝生麗子。
実は大財閥の令嬢。
が、警察内部ではそのことを知っているのはごく一部のみ。
彼女は普通に仕事に励むワーキングウーマンであります。
まあ、それだけならふつうのミステリなのですが・・・。
登場人物が実にユニークなのですね。
まずは彼女の上司、風祭警部。
名前を聞いただけですでにキザですが、
彼は"風祭モータース"社長令息。

"わかりやすい例でたとえるなら
「花形モータース」の御曹司花形満が
阪神タイガースに入団し損なって
仕方なく受けた警察官採用試験に合格し、
そのまま警察官になったようなもの"


というのですが、確かにわかりやすい。
愛車はシルバーメタリックのジャガー。
リッチをひけらかし、言動もキザ。
麗子嬢を財閥令嬢とは知らず、「お嬢さん」などと呼びかけるのですが、
麗子嬢は
「働いている女性に"お嬢さん"は失礼だろう。あんたはみのもんたか! 
第一私は"お嬢さん"じゃなくて"お嬢様"だっつーの!!」

と心の中で毒づく。

では、この二人のおかしな掛け合いの推理小説なのかと思いきや、
もう一人、これぞこの作中のヒーロー登場。
それは宝生家に仕える執事兼運転手の影山。

ひょろりと背が高く、年の頃なら30半ば。
喪服と見紛うようなダークスーツを着こなした姿は、
高貴な家柄の人物のようにも、キャバレーの呼び込みのようにも見える。


とあります。
全長7メートルはあろうかというリムジンで麗子を迎えにきて、
麗子の事件の話を聞いているうちに、
ズバリ事件の真相を言い当ててしまうという、
つまりこれはアームチェア・ディテクティブのストーリーだったんですね!

しかしこれが、普通の執事ならばあくまでも控えめだと思うのですが、
彼は
「失礼ながらお嬢様、この程度の真相がおわかりにならないとは、
お嬢様はアホでいらっしゃいますか」

と、言葉使いは丁寧ながら、毒舌きわまりない。
いちいち、ムカついてしまう麗子嬢ですが、
彼の推理の鋭さには、ぐうの音もでません。


そんなこんなで、スタイルは派手ながら意外と推理力には凡庸な風祭と麗子嬢が、
執事影山の推理のおかげで、数々の事件を解決していくという、
ユニークな短編集。
ヒントはすべてストーリーの中に示されている。
その謎は私たちへの挑戦でもある、という本格推理の王道でありつつ、
こんなに楽しく読めてしまう、
大変お得な本であります。


特に第6話「死者からの伝言をどうぞ」では、
ふだん現場には姿を表さず、
文字通り影の存在である影山が現場に登場。
ちょっとしたアクションシーンがありますよ。
これは必見、じゃなくて必読か。
麗子嬢が、
そういえば影山はいつもどこで食事をとっているのだろうか・・・
と思う場面があります。
そうなんですよね。
いわば私たちは影山の『仕事』のシーンばかり見ている。
彼の私生活にすごく興味がわきます。
今度はそんなシーンを出して欲しい・・・。
続巻が待たれます・・・。

「謎解きはディナーのあとで」東川篤哉 小学館
満足度★★★★★