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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「緑金書房午睡譚」 篠田真由美

2010年05月19日 | 本(SF・ファンタジー)
「あちら」と「こちら」を行き来するものたち

緑金書房午睡譚
篠田 真由美
講談社


           * * * * * * * *

古書店を巡るファンタジーです。
殺人事件はありません。
16歳、木守比奈子は、高校に通うのを止めていた。
大学教授の父が研究のためイギリスに行くことになり、
比奈子は親類の古本屋「緑金書房」に居候することに。
ところがこの古本屋、何かがおかしい。

店主緑朗は
頭に白いタオルをかぶって、ぼさぼさの前髪に度の強そうな黒縁眼鏡。
肘までまくりあげただぶだぶの白いシャツに、膝の抜けた灰色のズボン。
足下は素足に突っかけサンダル・・・というようなダザダサ。

・・・と、これは著者がよく使う手で、
一見全く冴えないのだけれど素顔は実は端正で、
これでパリッとしたスーツでも着れば、モデル顔負けのダンディー・・・というヤツですよ。
もっとも、今作ではそこまでのスタイリッシュなシーンは無いのですが。
まあそこまではいいとして、
書棚に並んだ本の題名が暗号のように「タスケテ」とならんでいたり。
夜中にフランス人形のような美少女が現れたり。
かと思えば猫がしゃべったり・・・。
そもそもこの書店、駅前通に面しているにもかかわらず、
何故かどうしても探し出せない人が居るらしい。
どうもここの人たちは「あちら」と「こちら」を行き来するようなのです。
「あちら」とは・・・?
たとえばタンスを通り抜けて行くことが出来る「ナルニア国」。
たとえば魔女が住むところ。
またたとえば、妖精が住んでいるところ・・・。

これまで全くの現実世界に住んでいた比奈子が、
自分の出生にも関わる「あちら」の世界を知るようになっていくという
幻想的かつホラー風味のあるファンタジー。

緑朗さんなど私好みのキャラではありますが、
全体的にはあまりにもムード先行のファンタジー中心なのが
ちょっともの足りなく思いました。
でも古書に対する愛情は伝わります。
イギリス文学に造詣の深い方ならもっと楽しめると思います。

満足度★★★☆☆