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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「プラトン学園」 奥泉 光

2007年11月03日 | 本(ミステリ)

「プラトン学園」 奥泉 光 講談社文庫

始まりはとても普通です。
大学を出たばかりの木苺は、ある離れ小島の「プラトン学園」に教師として赴任。
プラトン学園?
なにやら、恩田陸の欧風ロマンティック、金髪の美少年でも登場しそうな感じではありませんか。
学園の建物は確かにその通りだったのですが・・・。
ところがそこに登場する人物、他の教師たちは、なんとも俗っぽく、たとえてみれば、「坊ちゃん」の赴任した学校風。
ではそういう話なのかといえば、これもまったく違って、
なんと、映画「マトリックス」ばりの仮想電脳空間の物語。
学園中に張りめぐらされた、ネット網。
そこには、現実の「プラトン学園」とまったく同じ空間を探索できるソフトがあって、人々は、実際に出歩くよりもその中で歩き回るようになる。
そこには自分で操作できる「人」がいて、出会った別の「人」と会話もできる。
しだい次第に、自分がいるところが現実なのか、ソフトの中なのかわからなくなってくる。
学園の地下通路。
その先の地下都市。
時折森を闊歩する恐竜たち。
どこまでが現実で、どこからが仮想世界なのか。
ついには自分自身さえも、もう一つ外の世界から操られている存在であるようにも感じられる。
永遠の迷宮。

この物語には、結末がない。
ただ、自分が、永遠に続く虚構の中に生きているらしい、という自覚の中で、エンディングになってしまう。
けれど、それはもしかして、今生きている自分の状況にとても近いのかも・・・、そんな気がしてくるので、ちょっぴり怖い話です。

いつもこんな風に、不思議かつ不安な空間に投げ出されてしまう。
そこが、奥泉ワールドの魅力でもありますね。

満足度 ★★★★