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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

リコリス・ピザ

2023年03月01日 | 映画(ら行)

オトナか、コドモか

* * * * * * * * * * * *

1970年代アメリカ。
LA郊外の住宅地サンフェルナンド・バレーを舞台とする青春物語。

高校で生徒の写真撮影を手伝っていたアラナ(アラナ・ハイム)25歳。
そんな彼女に15歳高校生のゲイリー(クーパー・ホフマン)が一目惚れ。
アラナを必死で口説こうとします。

自信過剰な15歳男子ゲイリーは、映画の子役を務めたり、広告業をしていたり、
儲け話にはすぐに飛びつくアグレッシブなタイプ。

一方アラナは、自己肯定感低め。
この先の人生のビジョンもありません。

そんなアラナは15歳男子に言い寄られて悪い気はしないものの、
何しろまだ相手は「子ども」の年齢。
何かあれば犯罪になってしまう。
でも、なんにでも前向きに取り組むゲイリーを好きになっていきます。
けれど、恋人にはなれないと思う。

と言うわけで、仲良く共に時を過ごすことが多くはなるのですが、
人には友人とも恋人とも言えない、
宙ぶらりんであやふやな関係になってしまいます。

なぜかこの頃、こういう作品に多く当たってしまう。
高校生と成人との恋。
でもここでもきちんと大人の節度は守られていて(最後の最後は分からないけど)、
ありがたや、良識はまだちゃんと生きている、
アメリカですらも・・・と思う次第。
もっとも、未成年となにかあったら「犯罪」というのは、
近年作られた概念であろうし、それに縛られるのも杓子定規に過ぎる、
という思いも、ないわけではありません。

いやいや、本作のテーマはそんなことではないのですけれど。
つまりは年齢に縛られることなく、人と人の関係は作られるものだし、
必ずしも年上が年下を感化するのではなくその逆もアリということ。
迷って、悩んで、そして自由に自分らしく、
やりたいことをしようよ! ですね。

ムリしても大人っぽくあろうとするゲイリーと
年齢では「オトナ」だけど、しっかり自立のシナリオが立っていないアラナの
コンビネーションの妙。
くすぐったくも、楽しい。

ゲイリー役のクーパー・ホフマンは、
故フィリップ・シーモア・ホフマンさんの息子さんとのこと。

 

<WOWOW視聴にて>

「リコリス・ピザ」

2021年/アメリカ/134分

監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン

出演:アラナ・ハイム、クーパー・ホフマン、ショーン・ペン、トム・ウェイツ

青春度★★★★☆

満足度★★★.5


ラーゲリより愛を込めて

2022年12月12日 | 映画(ら行)

家族の元へ帰ることだけを信じて

* * * * * * * * * * * *

辺見じゅんさんのノンフィクション「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」を元にしています。

 

1945年。
戦後の話。

当時満州にいた日本兵は、ソ連軍によって捕虜となり、
シベリアの強制収容所(ラーゲリ)に抑留されました。
冬は零下40度にもなる過酷な環境の中、
わずかな食料のみで重い労働を強いられ、命を落とす者が続出。
そんな中で、山本幡男(二宮和也)は、
日本にいる妻(北川景子)や子どもたちの元に必ず帰ることができると信じ、
周囲の人々を励まし続けます。
その仲間思いの行動とまっすぐな信念は、
多くの捕虜達の心に希望の火を灯していきます。

まずは、実話に基づくというところがすごいですね。
山本らは、一度帰国が叶えかけるのですが、
無残にも場所を移してさらに25年の拘束を言い渡されてしまいます。
その絶望はいかに・・・。

結局は、日ソ関係の若干の好転から、
戦後12年で彼らは「ダモイ」(帰国)が叶うことになるのですが、
そこに山本の姿はありません・・・。

 

極限の状況の下では各々の人間性がむき出しになります。
そこで「卑怯」な行為が露呈したとしても、誰も責めることはできませんよね。
でもそんな中、自らのヒューマニズムを貫き通した山本。
妻と交わした約束「必ず生きて帰る」ことを胸に・・・。

こんな場所で彼らはどんなにか故郷へ帰りたかったことか。
懐かしい家族。温かい家。馴染んだ食べ物・・・。

 

収容所では幾度も宿舎の点検があり、
文字を書き記した紙などは没収されてしまいます。
それがスパイ行為に繋がることを恐れたのでしょう。
山本は最期に家族へ宛てて書き記した遺書を残したのですが、
そのままでは没収されてしまうことになります。
仲間達はどのようにしてその遺書を山本の家族の元に届けることができたのか。

涙なくして見ることはできません。
本作に登場した黒いワンちゃんにも、たっぷり涙を誘われました。

 

 

1945年に私たちは戦争が終わったと思っているわけですが、
こんな風にその傷跡はいつまでも続いているわけです。
現場の者も、彼らを待つ者にも。
国が始めたことなのに、一介の庶民ばかりが苦しみを背負う。

 

そうは言っても、世界は変わらずに戦争を繰り返すばかり。
むなしくなります。

 

<シネマフロンティアにて>

「ラーゲリより愛を込めて」

2022年/日本/133分

監督:瀬々敬久

原作:辺見じゅん

出演:二宮和也、北川景子、松坂桃李、中島健人、桐谷健太、安田顕

 

戦争を考える度★★★★★

望郷度★★★★★

満足度★★★★☆

 


リスタートはただいまのあとで

2022年11月22日 | 映画(ら行)

心地よい成長物語

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同名BLコミックの実写映画化。

東京の会社に就職し、上司に人間性を否定されて、
会社を辞めて10年ぶりに故郷に帰ってきた光臣(古川雄輝)。
気軽に、親の家業である家具職人を継ごうかと思っていたのですが、
父(甲本雅裕)には拒否されてしまいます。

光臣がここへ帰るなり出会ったのは、
近所で農園を営む熊井のじいちゃんの養子・大和(竜星涼)。
人なつっこくてなれなれしく、お節介な大和を、光臣は苦手に思っていたのですが、
結局、光臣は人手不足の農園を手伝うことに。
大和と過ごす時間が増え、光臣は次第に大和に親しみを覚えていきます。

ツンデレ男子光臣と、おっとり男子大和、この2人の純愛。
これはまあ、BLでなくても友情としてもステキな物語でした。

いつもニコニコ笑顔の大和。
彼には親がいなくて、養護施設で育ったのです。
でも彼にはそういう影がない。
・・・というのは見せかけで、実はその笑顔は、
他人が自分の内面に踏み込んでこないようにするための「壁」だったのですね。

大和と同級生の友人は、チャラくてあまり信用がおけない感じなのですが、
その彼が、大和のそういうところをしっかり見抜いていた、
というのがなんともナイスでした。

光臣の父は、光臣が東京から逃げ帰り、
安易な気持ちで店を継ぐなどと言っていることがわかるので、あえて拒否していたのです。
けれど、大和と向き合うようになって、光臣も成長していきますね。
なかなか心地のよい成長物語でした。

竜星涼さんの若い頃の作品?などと思って見ていたのですが、
2020年と、そんなに古い作品ではありませんでした。
朝ドラのダメ兄ちゃんのイメージは全くありません。
役者さんって、そういうものですね。

<Amazon prime videoにて>

「リスタートはただいまのあとで」

2020年/日本/99分

監督:井上竜太

原作:ココミ

出演:古川雄輝、竜星涼、村川絵梨、佐野岳、甲本雅裕、中島ひろ子

 

BL度★★★☆☆

成長度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


ライフ・ウィズ・ミュージック

2022年11月11日 | 映画(ら行)

共に生きること

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ステージで素顔を見せない “顔なきポップスター”として注目を集める
シンガーソングライター、Sia(シーア)が、
自身の半生を投影させて描いた作品にして、初監督の作品。

アルコール依存症のリハビリプログラムを受けているズー(ケイト・ハドソン)。
祖母の死をきっかけに、自閉症の妹、ミュージック(マディ・ジーグラー)と暮らすことに。

ミュージックは感受性豊かですが、周囲の変化に敏感、
時にはパニックを起こすこともあります。
そんな妹との生活に戸惑うズーに、アパートの隣人エボ(レスリー・オドム・Jr)が、
優しく手を差し伸べます。
そんなここでの暮らしに居心地の良さを感じ始めたズーは、
自身の孤独や弱さに向き合いながら少しずつ変わろうとします。
一方エボも、実は大きな悩みを持っていたのでした。

 

ミュージックの心の中に広がる音楽が、カラフルでポップな映像とダンスで表現されます。
これらの楽曲はもちろんSiaの書き下ろし。
一体どれだけの才能をもってるんだ!っていう感じですね。

自閉症の少女。
言葉で自分の感情を人に伝えることは難しいけれど、
それでも自分自身の中にはみずみずしい感覚が満ちあふれている。
本作の音楽シーンは、そういうことの表現でもあると思いました。

実は2人の母はシングルマザーとして2人を産み、薬物依存症。
ズーもミュージックもほとんど母の愛情を知りません。
ズーは早くに家を飛び出してしまいました。
一方ミュージックは祖母に引き取られて、
祖母とご近所の人々の温かな見守りによって、
それなりに穏やかな日々を過ごしていたというわけです。

ところがその祖母の急死で、すっかり状況が変わってしまった。

ズーが呼び戻されて、2人暮らし。
そもそも自分1人生きていくことすら危ういズーが、
ミュージックを抱えてどのように生きていくのか・・・、
まあ、それだけで心配ですよね。
おまけに、ズーの収入を得る手段というのが、麻薬の売人。
これではいかにもまずい。
そして頼りのエボの悩みというのも、深刻なのです。

困難や苦難は、身近にいくつも転がっている。
そんな中でも前向きに生きていこうという気力を生み出すのは、
やはり身近な人の存在なのかも知れません。
ズーはいつしか、自分こそがミュージックに支えられているのだと気づいていく。

それにしても、このお祖母さんの家のご近所さんが、
じつにさりげなくミュージックを見守ってくれている様子が、すごくいい感じでした。
障害者に対して、こんな風に地域が見守ることができるといいですよね。

ミュージックに対してほとんど愛情?とも思える思いを持つ1人の青年が登場するのですが、
彼の運命というのがちょっと哀しい。
しかもミュージック達はそのことに気づいていない。
彼の存在はほとんど「神」です。

ちょっと、ユニークな後味を残しました。

 

<WOWOW視聴にて>

「ライフ・ウィズ・ミュージック」

2021年/アメリカ/107分

監督:シーア

出演:ケイト・ハドソン、レスリー・オドム・JR、マディ・ジーグラー、
   メアリー・ケイ・プレイス、ベト・カルビーヨ

 

音楽の楽しみ度★★★★☆

満足度★★★.5


劇場版 ラジエーションハウス

2022年10月30日 | 映画(ら行)

病院と離島、それぞれの物語

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テレビドラマ「ラジエーションハウス」の劇場版。
ドラマは好きだったのですが、あえて劇場で見るまでもないかと思い、
配信で見ることができるのを待っていました。
ストーリーは、テレビ版の続きとなっています。

テレビドラマを見たことがない方のために付け加えますと、
ラジエーションハウスとは病院の放射線室のことです。
放射線技師・五十嵐や放射線科医・甘春の奮闘の物語。

ワシントンへ留学することになった甘春杏(あまかす あん)(本田翼)との別れの時が近づき、
落ち込んでいる五十嵐(窪田正孝)。
離島で小さな診療所を営む甘春の父・正一の危篤の報を受け、
杏は父の元へ駆けつけますが、程なく正一は息を引き取ります。
そこへ大型台風と土砂崩れ、さらには未知の感染症が襲いかかり、
杏は島で孤軍奮闘。

一方、杏がいない間の病院もすったもんだの出来事が多発。
それらがようやく一段落したときに、
ラジエーションハウスのメンバーは、島での杏の窮状を知ります。
それを知った五十嵐は・・・。

本作、予告編などで離島が舞台となった物語というような宣伝がなされていて、
そのために、なんだかいつもの話と違うという印象があって、
劇場で見ようと積極的には思わなかったという次第でもあります。
ところが実際に見てみれば、病院ではいつものごとく
いろいろな患者がいて、いろいろな騒ぎが巻き起こる。
その合間に杏の島での様子が描かれるのです。
そして、後半いよいよ五十嵐が島に向かう。

ということで、すべてが島の出来事みたいなPRは
ちょっと違うんじゃないかな?と思いました。
私は、やはりふだんの病院風景の方が好きなもので・・・
そちらをきちんとPRしてほしかった。
島のパンデミックは、特別見たいわけではなかった。
そもそも島での感染症に、何で放射線技師が乗り出すのかって、
なんだか不自然すぎる気がしてしまうのです・・・。

それにしても、悪いけど本田翼さんはいまだに「医師」が似合わない・・・。

テレビドラマでファンだった方は、大いに見るべし。
そうでない方は、特に見る必要はないかも。

<Amazon prime videoにて>

「劇場版 ラジエーションハウス」

2022年/日本/115分

監督:鈴木雅之

原作:横幕智裕、モリタイシ

出演:窪田正孝、本田翼、広瀬アリス、浜野謙太、鈴木伸之、遠藤憲一、山崎育三郎

ファンサービス度★★★★☆

満足度★★★.5

 


LAMB ラム

2022年10月13日 | 映画(ら行)

その日、生まれた「何か」

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謎めいた物語。

アイスランド、人里離れた山間部で暮らす羊飼いの夫婦、
マリア(ノオミ・ラパス)とイングヴァル(ヒナミル・ストイル・グブズナソン)。
ある時、羊の出産に立ち会うと、羊ではない「何か」が生まれてきます。

子供を亡くしていた2人は、その「何か」にアダと名付け、育てることに。
アダはすくすくと成長していきますが、
ときおりこの家の周辺に不穏な気配が・・・。

あまり詳しくは予習しないで見たのですが、
この物語、いったい何なのかと首をひねりながら見ていました。
ホラー? サスペンス? 不条理劇? 神話の変形? 
シャマラン監督風の話に発展しそうでもある・・・。
そんなわけで、ストーリーの先行きについては全く予測がつかないのです。

2人で暮らしていたこの家に、突然イングヴァルの弟がやって来ます。
アダにとっては叔父ということになります。
これまでアダをよその人に見せたことはありません。
それで弟はアダを見てぎょっとするのですが、
意外にもそのことを受け入れ、実際にアダをかわいがるようにもなる・・・。
ここで何やら不穏な事件が起こりそうな予感だったのが、そうはならないのです。

母の狂的とも思えるほどの「子供」への愛情の注ぎ方は
逆に不穏なものを感じさせるのですが・・・

そして、この奇妙だけれど平和な生活を打ち壊すモノは
じわじわと近づいている・・・。

最後まで見てみるとこれは案外単純な話であることが分かります。
なるほど・・・。

たとえば、桃太郎が桃から生まれてきたり、かぐや姫が竹の中から出てきたり・・・、
そういうことからすると山羊から何が生まれてもおかしくはないのか。
・・・そういう昔話系?
それとも、異類婚の話なのか?

色々と想像を巡らしながら見るのも面白いですね。

アイスランドの冷涼な空気感、この家の他には人家がない広大な山間部。
夜なのに窓の外が明るいというのは白夜なんですね。
他にはなかなか見られない舞台背景もまた、ステキでした。

 

<シネマフロンティアにて>

「RAMB ラム」

2021年/アイスランド、スウェーデン、ポーランド/106分

監督:バルディミール・ヨハンソン

出演:ノオミ・ラパス、ヒナミル・ストイル・グブズナソン、
   ピヨルン・フリーヌル・ハラルドソン、イングバール・E・シーグルズソン

不可解度★★★★★

満足度★★★☆☆


リング・ワンダリング

2022年06月01日 | 映画(ら行)

過去に息づいていたものたち

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漫画家を目指す草介(笠松将)は、絶滅したニホンオオカミを題材に作品を描いていますが、
肝心のオオカミをうまく表現できないでいます。
ある日草介は、バイト先の工事現場で、いなくなった犬を探す女性・ミドリ(阿部純子)と会います。

転んで怪我をしたミドリを彼女の家の写真館まで送り届けるのですが、
なにか、いつもの風景とは異質なものを感じる草介。
そしてその後、彼がまた同じ場所を訪ねてみると・・・!

草介がミドリに導かれて行ったのは、時の狭間の場所。
実は草介はミドリよりも前に、彼女の弟に会っているのです。
なんだか古風なカメラを抱えた少年。

写真館の主・ミドリの父(安田顕)は、
カメラは供出したとか、弟は田舎に行っているとか、
草介には不可解なことを言うのですが、見ている私たちにはピンときます。
何より、先に登場した弟や、ミドリ、そしてその父母の服装だけでも、現在のものとは違う。
デザインとか、材質とか、変わらないように思えても実際は結構違うものですね。
カメラの供出、弟の疎開。
そう、草介が迷い込んだのは、戦時中の草介の住む同じ町。

 

神社で樹齢1000年を超えそうなご神木を眺めながら、
なぜか地続きで自分の家に帰ってきて、また日常をたどり始める草介。
でもその時は自分がタイムスリップしてきたことには気づいていないのです。

しかし、またその写真館の場所に行ってみると、そこには新しい写真館が建っている。
あの時に会ったミドリとその両親はもういません。

過去に実際にあった日常、温かな人の暮らし。
でもそれはもう2度と取り返すことはできない。
ニホンオオカミも人も、それについては同じなのかも知れません。

また、草介の描く漫画も一部実写化となっていまして、
絶滅寸前となっているニホンオオカミを追う猟師のストーリー。
明治末期くらいでしょうか。

それなので本作には、明治と戦時中の昭和、そして現在、
3つの時代が描かれています。

ニホンオオカミが生きていた時代を思う草介は、
同じ場所で生きていた様々な人々や動物たちの息吹を感じ取ったのでしょう。

そして、ラストシーンにおもわぬ仕掛けがあって、ハッとさせられるのですが、
つまり自分たちは気づいていないけれども、過去生きていたものたちは実はすぐそばにいて、
今も私たちは彼らに見守られながら生きている。
・・・そんなことなのかも知れません。

 

何やら近頃、笠松沼にハマりかけている私でした。
「TOKYO VICE」の将さんにはシビれます。

 

<サツゲキにて>

「リング・ワンダリング」

2021年/日本/1032分

監督:金子雅和

出演:笠松将、阿部純子、安田顕、片岡礼子、品川徹

 

ミステリアス度★★★★☆

過去生きたものへの愛★★★★☆

満足度★★★★★

 


流浪の月

2022年05月26日 | 映画(ら行)

密かに輝きながら、さまよう2人

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本作は先日原作を読んだばかり。
だから本来見なくても良かったのですが、
松坂桃李さんがどのように文(ふみ)を演じているのか、見たくなってしまいました。

雨の公園でびしょ濡れになっていた10歳の少女・更紗に、
19歳大学生の佐伯文(松坂桃李)が傘を差し掛けます。
叔母の家に引き取られて暮らしていた更紗は家に帰りたくなくて、
文の家に付いていきます。
そこで二人は2か月を気ままに遊び暮らすのですが、
その間叔母にも連絡は入れていなかったため、更紗には捜索願が出されていました。
そしてついに文は更紗を誘拐した罪で逮捕されてしまいます。

ロリコン男に誘拐され、いたずらされたあげく、洗脳されてしまったかわいそうな女の子。

汚らわしいロリコンの誘拐魔。

事実とは全く裏腹に、世間からはそのような烙印を押されてしまった二人。

 

そしてそれから15年が過ぎて、二人は再会します・・・。

更紗(広瀬すず)は、亮(横浜流星)と同棲しており、
亮は結婚を望んでいるのですが、更紗はあまり気が進まない様子。
文はひっそりと喫茶店を営んでいます。
恋人もいる様子・・・。

文と出会ったときにはあんなに気ままで自由でいた更紗が、
今はいつも人の思惑を気にして小さくなっているように思われます。
更紗の子どもの頃の事件はネットなどで周囲の人も知っていて、
常に同情的な目で見られてしまいます。
どんなに自分はひどい目になんかあっていないと言っても
周囲の人は信じず、洗脳されてそう思い込まされている気の毒な人、
と思われるだけなのです。
そんな彼女が、安心して自分らしくいられるのはやはり、文の元にいるときなんですよね。

そして、ロリコンなどではない文の真実が、最後に明かされます。
私には、セックスなどを介さない、ただ心のつながりがすべての2人の関係が
より崇高なもののように思われるのですが・・・。
昨今少し話題になっているアセクシュアルとか、アロマンティックのことも
考え合わせてみるとよいと思います。

松坂桃李さんはこの役にかなり体重を落として臨んだそうです。
確かに、この役はなかなか難しい。
実体験として想像するのが難しそうなので。
でも、本を読んで私が思い描いていた“文”のイメージにかなり近かったと思います。
さすがです。

それと、横浜流星さんが、これまでにないイヤな男の役どころ。
これもまた良かったですねえ。

 

原作はこちら→「流浪の月」

 

<シネマフロンティアにて>

「流浪の月」

2022年/日本/150分

監督・脚本:李相日

原作:凪良ゆう

出演:広瀬すず、松坂桃李、横浜流星、多部未華子、朱里

 

理不尽度★★★★★

満足度★★★★☆

 


ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから

2022年03月26日 | 映画(ら行)

付き合ってもいなかった別世界で

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ファンタジックラブストーリー。

ラファエル(フランソワ・シビル)とオリヴィア(ジョセフィーヌ・ジャピ)は、
高校時代に出会い一目惚れ。
そのまま付き合って、やがて結婚。


人気SF作家として多忙な毎日を送るラファエルと
小さなピアノ教室を開いているオリヴィア。
しかし、ラファエルのオリヴィアに向ける関心は薄れていって、
大げんかをしてしまった翌朝・・・。

ラファエルは見覚えのない部屋で目を覚まします。
そこはもう一つの別の世界。
ラファエルはしがない中学教師で、オリヴィアは人気ピアニストです。
そしてこの世界では高校時代の2人の出会いは起こらず、
オリヴィアはラファエルのことを何も知らないのです。
失ってしまったものの大きさに愕然とするラファエル。
いったいどうすれば元の世界に戻れるのか・・・?

ラファエルは2人の恋をまた始めれば元の世界に戻れるのでは?
と思い、オリヴィアに接近。
下手をするとただのファンのストーカーになるところですが、
巧みに自己アピールをして、自分を知ってもらうことに成功。
しかし、オリヴィアには結婚を意識している彼氏もいたりして、
なかなか前途多難です。

こんな中でラファエルを応援してくれるのが高校時代からの親友、
フェリックス(バンジャマン・ラベルネ)。
フェリックスはラファエルが「別の世界から来た」というのも始めは信じていませんでしたが、
やがて信じるようになり、いろいろなアドバイスをくれます。
でもこの人、ちょっと変人で適当かつポジティブ、というところが面白い。
しかし、どちらの世界においてもフェリックス大好きで協力を惜しまない。
持つべきものは友ですねえ・・・。

本作、この人の存在がなかったら全然つまらない話になっていたに違いありません。

多元宇宙、平行世界・・・。
そういうSFっぽい題材から始まってはいるのですが、
不可思議な事が起こるのは始めのその時だけ。
その後は現実的に話が進みます。
別の世界に紛れ込んでしまうというシチュエーションだけで作った作品とも言えるのですが、
ラファエルの行動がなかなか良くて、楽しい作品でした。

<WOWOW視聴にて>

「ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから」

2019年/フランス・ベルギー/118分

監督:ユーゴ・ジェラン

出演:フランソワ・シビル、ジョセフィーヌ・ジャピ、バンジャマン・ラベルネ

 

ラブコメ度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)ぼくが選ぶ未来

2022年02月07日 | 映画(ら行)

妖精たちと人間との確執

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本作、元は中国で配信されたWEBアニメとのこと。
それを劇場版としたものです。

まずは冒頭から登場するおメメの大きな黒猫、
シャオヘイのかわいらしさに魅了されてしまいました。

シャオヘイは美しい森の中に暮らす妖精で、
時には人や大きな化け猫の姿になったりすることもできます。
一人、平和に暮らしていたシャオヘイですが、
ある日、森を人間たちが開発しはじめ、住む場所を失ってしまいます。
やむなく都会の片隅をさまようシャオヘイ。
そこへ現れたのが同じく妖精のフーシーたち。
彼ら妖精だけの住む小さな島に案内してくれて、
ここで一緒に暮らそうと言ってくれます。

ところが、そこに敵対するムゲンが現れます。
ムゲンは人間なのですが、修行で様々な技を身につけていて、かなり妖精に近い存在です。

フーシーたちはシャオヘイを置いて去ってしまい、
残されたムゲンとシャオヘイは二人きりで小さな筏に乗り、大陸の街を目指すことに。

せっかく見つけた安住の地を乱したムゲンをシャオヘイは嫌って反発しますが、
とても力ではかないません。
しかしムゲンは驚くべき包容力でシャオヘイに妖術を教えたりします・・・。

実はこの妖精の世界、人間と共存していこうとするものたちと、
人間に反発し滅ぼしてしまおうとするものたちが真二つに分かれ、
争いが起きているのでした。
フーシーが反発派、ムゲンが共存派のそれぞれのリーダーだったのです。

シャオヘイは、ムゲンのやさしさに触れ、次第に人間嫌いの気持ちも変わっていきます。
実はムゲンは街に行こうと思えばすぐにでも帰り着ける力を持っていたのですが、
ここでゆっくりシャオヘイと向かい合いたいと思ったのですね。
というのも、どうもシャオヘイには底知れない力が眠っているようなので・・・。

そしてたどり着いた都会は紛れもなく現代。
高層ビル、地下鉄、スマホに見入る人々・・・。
そんな中で繰り広げられるバトルもステキに表現されています。

所々、ジブリっぽいシーンがあったのは、
マネというよりはオマージュというべきでありましょう。

ユーモアも満載で、たっぷり楽しめました。

 

<WOWOW視聴にて>

「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)ぼくが選ぶ未来」

2019年/中国/101分

監督・脚本:MTJJ

出演(日本語吹替版・声):花澤香菜、宮野真守、櫻井孝宏、斉藤壮馬

 

ファンタジー度★★★★☆

キャラクター造形度★★★★★

満足度★★★★☆

 


リトル・シングス

2022年02月06日 | 映画(ら行)

ビターな警察モノ

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題名だけ見ると何かかわいらしい感じがするのですが、とんでもない!
実に苦い作品です。

カリフォルニア州カーン郡巡査のディーク(デンゼル・ワシントン)。
事件の証拠を受け取るためにロサンゼルス市警へ出かけます。
その任務はすぐに終わるはずだったのですが、
そこで、とある連続殺人事件の捜査に協力することに。
実は、ディークは以前ここの敏腕刑事だったのです。
この事件の指揮を執るのは、バクスター(ラミ・マレック)。
彼はディークの経験とするどい勘を認め、
彼に協力を仰ぎ、共に捜査に当たることにしたのです。
やがて、一人の容疑者、スパルマ(ジャレット・レト)が浮かび上がりますが、
ディークの勘が彼を犯人だと指し示すものの、確たる証拠がない・・・。

 

ディークは捜査に熱中するあまりに、よく問題を引き起こしていました。
どうもそれが今、昇進もせずに地方に埋もれている原因らしいのです。
妻子とも別れて一人暮らし。

しかし捜査に当たる姿勢は今も変わりません。
バクスターは次第に彼の熱意に影響され巻き込まれていきます。

さて一方、犯人かと思われるスパルマもまた、一筋縄ではいかない。
証拠があるわけないと強い自信があるためか、
事情聴取にも動ぜず、不適な笑みを浮かべます。

次第に「三人の名優の対決」のような構図になっていきますね。
ここは見所です。

そして思いがけない結末に、私たちは言葉を失うことになります。
人というのはたとえ警官でも完全ではないのだなあ・・・。
苦い、苦い・・・。

 

<WOWOW視聴にて>

「リトル・シングス」

2021年/アメリカ/128分

監督・脚本:ジョン・リー・ハンコック

出演:デンゼル・ワシントン、ラミ・マレック、ジャレッド・レト

 

捜査への熱中度★★★★★

満足度★★★.5


るろうに剣心 最終章The Beginning

2021年12月27日 | 映画(ら行)

剣心の「はじまり」の物語

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「るろうに剣心」シリーズ、完結編二部作の第2弾。
前作「The Final」は見たのに、こちらを見そびれていました。
剣心が不殺の誓いを立てるに至るまで、
そして、頬に刻まれた十字傷の謎に迫ります。

 

時は幕末。
「人斬り抜刀斎」と呼ばれ、恐れられていた男がいました。
多くの者を非情に惨殺するこの男こそ、緋村剣心(佐藤健)。
彼は、長州藩・桂小五郎(高橋一生)のもと、
影の暗殺者として佐幕派の者を倒す仕事をしていたのです。

あるとき、雪代巴(有村架純)という女に暗殺現場を見られてしまい、
他言されては困るため、そばに置き様子を見ることになります。

にこりともせず不思議な雰囲気をまとう巴。
一方剣心は最近、生きようとする執念の凄まじい男を倒し、
その男に頬に傷をつけられてからは、おのれの仕事に若干疑問を抱き始めていました。
剣心と巴は微妙な緊張感を持って対峙するのですが、
次第にかすかな安らぎのようなものを覚えるようになるのです。
決して人前で眠り込むことのない剣心が、巴のいる場所で、まどろむようになる・・・。

禁門の変により京を追われた長州藩の面々には、
しばらく潜伏の期間が訪れます。
そのとき剣心と巴は、農村で穏やかな二人だけの時を過ごします。
ほんのつかの間、二人に笑顔が浮かぶ平和なとき。
しかし・・・。

二人の間の緊張感、そしてそれが次第にほぐれていく様、
すごく繊細に描かれていました。
このシリーズが始まってから約10年。
佐藤健さんの演技の深まりを感じるところでもあります。
迫力満点の殺陣のシーンもさることながら、
私、こういう所にシビれて、感動しました。

2人の暮すあばら屋は、室内でも息が白く見える寒々としたところ。
この空気感がまた良かったです。
そんな中で、2人は互いのぬくもりを幸せに思いながら過ごしていたのですね・・・。

時は新選組の活動も華々しい幕末。
斎藤一(江口洋介)との対面シーンや、沖田総司(村上虹郎)との対決シーンもあって、
見所でもあります。
野球少年の村上虹郎さんもいいですけれど、沖田総司ときたか、カッコイイ!!

前作で、巴の弟・縁(えにし)がなぜそんなに剣心を嫌うのか、
ということにつながるスト-リーでもあり、
なるほど・・・と思うところでもあります。
ここの時系列が逆になっているところがまたいいのですよね。
まさに、Beginninng、剣心の始まりの物語が一番最後に描かれる。
なんてしゃれているのでしょう。
そして私は本作が一番好きかも知れません。

さっさと見れば良かった・・・。

 

「るろうに剣心 最終章The Beginning」

2021年/日本/137分

監督・脚本:大友啓史

原作:和月伸宏

出演:佐藤健、有村架純、高橋一生、村上虹郎、江口洋介、安藤政信

 

物語の完結度★★★★★

満足度★★★★★

 


ラスト・クリスマス

2021年12月24日 | 映画(ら行)

不思議な青年・トムとは

* * * * * * * * * * * *

時節柄、クリスマスものを・・・。

ロンドンのクリスマスショップで働くケイト(エミリア・クラーク)。
仕事に身が入らず、乱れがちな生活。
同居人から追い出されても、折り合いの良くない実家には帰る気が起きません。

そんなある日、ケイトの前に不思議な青年・トム(ヘンリー・ゴールディング)が現れます。
彼はケイトの問題を見抜き、答を導き出します。
しかし、ケイトがそんなトムとまた会いたくなっても、
彼はケータイを持たず、連絡がとれません。
何日か姿が見えないと思ったら、不意に現れたりするのです。
果たしてトムの真実とは・・・?

ケイトは少し前に大病をしたらしいと分かって来るのですが、
その後ケイトは生きる実感や目的を見失ってしまっているようです。
その秘密とトムの正体が明かされるとき、
私たちは深い感動に包まれます。

まさにクリスマスの奇跡。

ステキな物語です。
クリスマスに、ぜひ。

<WOWOW視聴にて>

「ラスト・クリスマス」

2019年/アメリカ/103分

監督:パール・フェイグ

脚本:エマ・トンプソン、ブライオニー・キミングス

出演:エミリア・クラーク、ヘンリー・ゴールディング、ミシェル・ヨー、エマ・トンプソン

 

クリスマスの奇跡度★★★★☆

ハート・ウォーミング度★★★★☆

満足度★★★★☆

 

 


ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実

2021年12月17日 | 映画(ら行)

一人一人の、終わらない戦争

* * * * * * * * * * * *

実話に基づいています。

1999年、アメリカ。
空軍省に勤務するハフマン(セバスチャン・スタン)は、
30年以上請願されてきた、ある兵士の名誉勲章授与についての調査を開始します。
それは、その時から30年以上前のベトナム戦争下のこと。
1966年、米国の陸軍史上最悪の日とも言われる、多くの死傷者を出した日のことです。

敵の奇襲を受け孤立した陸軍中隊の救助に、空軍落下傘救助隊が向かいました。
ヘリコプターで現地に向かいましたが、着地できるような場所もありません。
第一、地上では激しい銃撃戦が繰り広げられているさなかです。
しかしピッツェンバーガーは、果敢に単身で地上に降り立ちます。
彼は銃弾の飛び交う中、負傷兵を集め、的確な治療を施していきます。
彼によって、多くの兵が一命を取り留めたのですが、
結局ピッツェンバーガー自身は銃弾に倒れ、帰らぬ人となったのです。

このことの調査担当となったハフマンは、
30年も前の、しかもすでに亡くなっている下級兵への名誉勲章授与
と言うこと自体に興味が持てませんでした。
出世街道まっしぐらに歩みつつある彼にとっては、
とんでもない寄り道、時間の無駄に思えたのです。
これまでの担当者も、適当にお茶を濁しつつ、
次の担当者にバトンタッチしてきたに過ぎない。
けれど、ハフマンは、当時ピッツェンバーガーに救助された
退役軍人たちの証言を集めるうちに、心が動かされていきます。

彼らは30年経った今でも、当時の心の傷を抱えたままでいる。
その時の恐怖、絶望感はもちろんのこと、
自分のちょっとした判断ミスが犠牲者を増やしてしまったのではないかという後悔。
そして、多くの死者を尻目に自分が生き残ってしまったことの罪悪感・・・。
PTSDで未だに精神が不安定の者もいます。

そんな彼らが、命がけで自分たちを救おうとしたピッツェンバーガーが
名誉勲章を受けることで、自分たちの戦争もピリオドが打てるのではないか・・・
そんな風な気持ちになっていったのかも知れません。

ところが、30年ものあいだこの名誉勲章授与の話が進展しなかった裏には、
実は「不都合な真実」があったから・・・。
どうも、政治的な圧力で握りつぶされていたらしいと知ったハフマンは、
もはや出世の道も断たれる覚悟で、真実を突き詰めます。

なんとも感動の物語。
心打たれ、悲しいシーンではないのに泣けました。

退役軍人たちには、豪華キャストがあてられています。
エンドロールに、「ピーター・フォンダに捧げる」という一文がありました。
遺作だったそうです。
そして、今年2月に亡くなったクリストファー・プラマーも、
遺作かどうかは分かりませんが出演しています。

 

<WOWOW視聴にて>

「ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実」

2019年/アメリカ/116分

監督:トッド・ロビンソン

出演:セバスチャン・スタン、クリストファー・プラマー、ウィリアム・ハート、
   エド・ハリス、サミュエル・L・ジャクソン、ピーター・フォンダ、ジェレミー・アーバイン

 

歴史発掘度★★★★☆

感動度★★★★★

満足度★★★★★


ライトハウス

2021年07月30日 | 映画(ら行)

心の闇を照らし出す、灯り

* * * * * * * * * * * *

全編35ミリ白黒フィルム、スタンダードサイズ。
と言われてもそういうことに全然詳しくない私ですが、
まさしくすべてモノクロで、いかにもクラシカル。
というのも舞台が1890年代ということで、
そういう生々しく古い因習めいた雰囲気がたっぷりです。

ニューイングランドの孤島に4週間灯台と島の管理を行うために
2人の灯台守がやって来ます。
ベテランのトーマス・ウェイク(ウィレム・デフォー)と、
未経験の若者、イーフレイム・ウィンズロー(ロバート・パティンソン)。

トーマスはまるで暴君のように威張り散らし、イーフレイムをこき使います。
イーフレイムは、掃除や石炭運びなどの雑用ばかりをさせられ、
肝心の灯室には入れてももらえません。
どうにもソリが合わず、不信感ばかり募らせていく2人。

やがて、凄まじい嵐が島を襲う・・・。

そもそもこの島への上陸時からすでに不穏で、
おどろおどろしい雰囲気が立ちこめています。
ときおり響く霧笛の音は、まるで地の底の怪物が放つ咆哮のよう・・・。
登場人物はこの2人のみ。
外界とは断絶されたこの小さな島で起こることは幻想か、狂気か・・・。

ライトハウスといえば、日本では単に「灯台」ですが、
キリスト教では教会とか神のようなものをイメージすることがあるようです。
ゴスペルの歌詞に良く出てきます。
灯台の光は真実を照らす光であり、
私たちのような真理に対して盲目であるものを導く灯りでもある、ということで。

そして、この2人はそれぞれにある“罪”を隠し持っているのです。
普段はそんなことも自分では忘れたフリをしていますが、
胸の底では罪悪感を抱えていて、その罪におののいている。
そんな胸の奥底の暗がりを、灯台の光が浮かび上がらせるということなのでしょう。

映像に映し出される光景はゾッとするくらいに不潔で不衛生。
当時の離れ小島でのことなので、こんなものなのかもしれません。
そして嵐になれば外と変わらぬほどの雨漏り、
ついには大波が部屋の中まで押し寄せてきます。
こんな混乱の中で彼らは憎悪をむき出しにしていく。
その幻想感は白黒の映像で一層の効果を上げているようです。

ときおり映し出される異様なシーンはおそらくギリシャ神話に由来するものだと思います。
もっとギリシャ神話をよく知っていれば良かった、と思ってしまう。
残念。
一番最後のシーンはおそらく「プロメテウス」でしょう。

 

ロバート・パティンソンとウィレム・デフォーは
そうと言われなければわからないくらいに、粗野な灯台守になりきっています。

ただただ、圧倒されてしまう作品でした。

 

<シアターキノにて>

「ライトハウス」

2019年/アメリカ・ブラジル/109分

監督:ロバート・エガース

出演:ロバート・パティンソン、ウィレム・デフォー

 

時代性★★★★☆

おどろおどろしさ★★★★★

満足度★★★★☆