映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「流浪の月」凪良ゆう

2022年04月29日 | 本(その他)

多様性のこと

 

 

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あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。
わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。
それでも文、わたしはあなたのそばにいたい――。
再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、
運命は周囲の人を巻き込みながら疾走を始める。
新しい人間関係への旅立ちを描き、
実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。

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読み終えてから気づきました。「創元文芸文庫」?!
創元推理文庫には散々お世話になっていますが、これはいつから・・・?
と思ったら本巻がその創刊第一号なんですね。
2022年2月に創刊されていました。
今後が期待されます!

 

さて本巻、2020年本屋大賞受賞作ですね。
結局文庫が出るまで待ってしまった・・・。

ちょっと、ヒヤヒヤさせられる作品です。

更紗の両親はかなり独特の夫婦で、子育ても自由気まま。
しかし、父が亡くなり、壊れた母はある日突然、
まだ小学生の彼女を置いて出ていってしまいます。
取り残された更紗は親戚の家に引き取られますが、
気ままに育った更紗はどうしてもなじめない。
そして、そこでまた耐えがたいイヤな体験もします。

家に帰るのがイヤで仕方のない更紗を拾ってくれたのが、大学生の文(ふみ)。
雨に濡れそぼった更紗を文はマンションに連れ帰り、
いつまでも好きなだけいていい、といいます。
その言葉に甘えて、そこでようやく「自由」に、穏やかな日々を送る更紗。

しかしこれは端から見れば、
「若い男が少女を誘拐監禁している」ということになってしまいます。
実際、更紗には行方不明者として捜索願が出されており、
ある日とうとう、二人で出かけた先で更紗は発見され、
文が誘拐犯として逮捕されてしまうのです。

そしてそれから15年が過ぎて、更紗と文がまた出会うようになる・・・。

 

 

そんなことをしたら、あんなことになってしまう・・・という
こちらの杞憂がいちいちその通りになってしまうという、
読むのになかなかしんどい物語です。

更紗は少女の頃、どこにも行き場がなく安心して寝られる場所もなかった。
そんな彼女をただ受け入れて優しく、したいようにさせてくれる、
そしてもちろん性的な怪しい行動はない文。
警察に保護され、そのことを言ったにもかかわらず、理解してもらえなかったのです。
監禁され、いたずらされて、
しかもストックホルム症候群で犯人に親しみを覚えてしまった、かわいそうな女の子。
警察も、関わる大人たちも、世間一般も、その考えに凝り固まっています。
・・・そうだろうなあ、私だって、そういう少女の話を聞いたらそう考えると思います。
世間一般の常識とか良識とかいうものがいかに危ういか。
私たちは時には立ち止まって考えなければなりませんね。

しかし実は文の方にも小児性愛などではない、問題があった。
このことが終盤明かされます。

個人個人の生き方や在りようには様々な形があって、
それはたとえマイノリティであっても尊重されるべきだし、
堂々と胸を張って生きればいい。
そういう物語です。

 

少し前にNHKでやっていた「恋せぬ二人」を思い出しました。
アロマンティックとか、アセクシュアルということ。
男女だからといって必ずしもセックスが必要ではない関係。
ドラマ中ではそれを「家族」と言っていました。

恋しなくても、ひとりぼっちである必要はない。
互いに寄り添い、ぬくもりを感じられる人と共にいるだけで
どれだけ慰められるでしょう。

本作では、更紗にも文にもエロス的恋愛ができないことにはそれぞれの要因がある訳ですが、
たとえそんなものがなくても、やはり生き方はそれぞれ。
多様性を受け入れたいものです。

「流浪の月」凪良ゆう 創元文芸文庫

満足度★★★★★

 



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