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生きがたさの根源

2007年02月26日 03時22分54秒 | カミングアウト論
 90年代リブの勢いは、自分たちがゲイであることで差別されている、セクシュアルマイノリティであることで差別されている、それを解消すれば生きがたさが消えるはずだという希望的観測が原動力になっていました。

 現在、生きがたさの根源として多くの人が考えているのは、仕事のことでしょう。ことさら30代の人びとは、自分の周囲で先輩たちがどんどんリストラでクビを切られていった状況を見ています。その点、20代の人たちとは意識が違います。
 「現状としては、景気がいいけれど、これがひとたび崩れれば、ともすると自分がリストラ対象になるかもしれない」という意識を明確に持っています。また、30代以降になると、転職の口が急激に少なくなることを知っています。ぼくも、一時期、就職した会社に次々と首を切られ、次の就職は見つからず……という時期をすごしましたが、これはものすごくつらい体験です。自分が社会の中で役に立たない人間だといわれているような気がして、ひどいうつ状態に陥りました。会社でそういう立場で戦々恐々として生きている限り、カミングアウトをすることで不利な条件をわが身に貸すことになる可能性があるならば、ただ単に黙っているほうを選択する。
 まだ就職したての20代は、「ここがダメなら転職すればいいし~」と思っているし、実際に転職先を見つけるのはさして困難ではないのです。その意味では、ぼせさんの言うように、下の世代が勢いでカミングアウトをしていく方が有効だし、現実味があります。

 仕事をしないと食っていけない。生活保護で最低限の生活はできても、自尊心を保つ契機が失われますので、非常に苦しい立場になることがはっきりしています。

 「なぜ、僕らは黙っているのだろう?
 という問いの答えはその辺りにあるんじゃないかという気がします。
 雇用関係の正常化や、転職可能性の確保といった社会資源が提供されない限り、カミングアウトをしてゲイやレズビアンの権利のために動くよりも、優先する事柄が残ってしまいます。
 
 ぼくの相棒が、「カミングアウトなんて社会的な強者がやるものだ」などというのも、完全に同意するわけではないものの一理はあると思います。彼は、大手企業の社員で、カミングアウトして生きている作家や映画監督や予備校講師なんかより、よほど安定した給料と身分保障があるわけですから、その意味ではそちらのほうがよほど強いということに、あまりにも無自覚なので、完全に同意できるわけではありません。彼の個人的な資質として、自分が弱者であるという設定にしておけば、いろいろ楽に生きられるという損得計算があって、決して自分が強い立場にあることは認めようとしないわけです。
 しかし、そこに深い溝ができているのも事実で、カミングアウトできる人はカミングアウトできない人に対して厳しい視線を投げかけるし、カミングアウトできない人はそうやってカミングアウトできる人を「あちら側の人」であり、自分の幸せに資する活動をしていない人だと切断してしまう。いまお前らが結婚もせずに社会生活が送れているのも、先達がカミングアウトをしていったおかげなんだけど、そんなことは「当たり前に与えられた社会条件」だと思っているので、カミングアウトのご利益が実感できない。

 カミングアウトしやすい外資系などの会社とカミングアウトしにくい会社とで、メンタルヘルスやゲイの昇進について統計を取ってみるなど、カミングアウトの研究をして、それが職場環境にも確実に影響することを実証しないと、彼らを説得するのは難しいのではないかと思います。

 動ける人は動いたほうがいい。そして、動けない人をどうやって選挙に動員できるか。その両面から考えてみると良いのではないかと思います。これは繰り返していますが政治的な動きを実らせるためには、カミングアウト派だけでは、不足なんじゃないかと思います。

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