MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『大統領の執事の涙』

2014-02-17 00:21:33 | goo映画レビュー

原題:『Lee Daniels' The Butler』
監督:リー・ダニエルズ
脚本:ダニー・ストロング
撮影:アンドリュー・ダン
出演:フォレスト・ウィテカー/オプラ・ウィンフリー/デヴィッド・オイェロウォ
2013年/アメリカ

リアリズムの「按配」について

 実在した、34年間ホワイトハウスで執事を務めた黒人のユージン・アレンに「インスパイアー」されて脚本が練られたようであるが、決してアレンの人生そのものが描かれているわけではない。だから「実話に基づいた感動のヒューマン・スペクタクル」という本作の惹句は誤解を招きかねない。
 例えば、本作の冒頭で描かれているように主人公のセシル・ゲインズの両親が白人に虐待を受けたというようなことが実際にあったかどうかは確認されていないようであるし、アレンの一人息子であるチャールズ・アレンが反政府運動に加担したという事実もないようである。
 ロナルド・レーガン大統領が南アフリカ共和国のアパルトヘイト政策撤廃に反対した理由は、当時まだ勢いがあったマルクス主義のような全体主義がアパルトヘイト政策に取って代わることを恐れたからであるということが描かれていないことに批判が出るなど、映画そのものの出来が良いだけに歴代の大統領が誤解される恐れがあることが指摘されている。
 確かにストーリーは良質のものではあるが、内容がほぼフィクションだとするならば、このような質の作品に観客はどれほど感動できるものなのだろうか? だから東京大学教授の藤原帰一が『それでも夜は明ける』(スティーブ・マックィーン監督 2013年)のレビューにおいて、「伝統的なハリウッド人種映画の典型ともいうべき作品が、『それでも夜は明ける』の前に公開された『大統領の執事の涙』でした。黒人社会の視点からアメリカ社会の変化を捉えた映画でしたが、人種差別への切り込みはごく微温的です。そして微温的だからこそ、いつもならアカデミー賞を取るはずの作品でした。/ところが『大統領の執事の涙』ではなく、見るのがつらいほどきつい表現が続く、『それでも夜は明ける』が受賞した。よい映画の受賞に驚くのは失礼な気もしますがそれでも驚いてしまう。オバマを大統領に選んだアメリカ、やはり昔とは変わったのでしょう。」と書いているが(「藤原帰一の映画愛」毎日新聞 「日曜くらぶ」 2014年3月9日)、「微温的」が原因ではなく、上記の理由のために、『大統領の執事の涙』は第86回アカデミー賞のどの部門にもノミネートさえされていないのである。


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架空人物に賞を授与する意味

2014-02-16 20:12:01 | Weblog

全日展の主催者、「架空」認める 福島県、賞取り消し(朝日新聞) - goo ニュース
受賞者実在せず 書の「全日展」本県知事賞(福島民報) - goo ニュース
全日展で架空受賞者 県知事賞を取り消しへ(福島民友) - goo ニュース

 外務省や文化庁などが後援している書道中心の公募美術展の「全日展」で、平成25年度

の福島県知事賞受賞者は実在しないことが判明した発端は、同会が架空の人物に賞を

出しているとの情報が今月、県に寄せられたからで、県が会に確認したところ、受賞者

とされた「工藤松月」氏は実在せず、全日展側から「偽名で出品した人がいた。賞は返上

する」などと説明する文書とともに昨年の知事賞の賞状が返送されてきて、県が申請書

に記載された受賞者の住所を確認したが、実在しなかったらしい。さらに福島県のみ

ならず、岐阜、福島、山形など少なくとも12県の知事賞受賞者が架空の人物だった

疑いがあるらしい。不思議なことは架空の人物が受賞することで誰が得をするのか

よく分からないところである。指摘されるまで賞状を返送しなかったということは

「全日展書法会」が賞状を持ったまま何らかの企みがあったとは思うのであるが


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『ROCKERS(完全版)』

2014-02-16 19:33:39 | goo映画レビュー

原題:『ROCKERS(完全版)』
監督: 津島秀明
撮影:井出情児
出演:FRICTION/LIZARD/Mr.KITE/MIRRORS/PAIN/S-KEN/ザ・ストラングラーズ
1979年/日本

世界と日本のロックバンドの差について

 当時の日本のニュー・ウエーブ系のロックバンドを観ることが出来るという点では大いに評価できるのであるが、最後にザ・ストラングラーズが出てきた途端に、そのレベルの違いを思い知らされる。それは楽曲や演奏の良さのみならず、例えば、『噂((Rumours)』というアルバムが大ヒットしていたフリートウッドマックの音楽に対して「毒にも薬にもならない」と切り捨てるストラングラーズのメンバーとは対照的に、日本のバンドのメンバーが矢沢永吉を一刀両断することはない。その上、ストラングラーズのメンバーは三島由紀夫の切腹にまで言及する聡明さを披露し、これでは日本のバンドは世界に通用するはずはないであろう。
 ところでそのようなシーンが映し出される本作のテーマなのであるが、サブストーリーとして、とある会社で働いていた男がリボンを付けた箱を持ち出して脱糞を残して会社を去る。それはロックに目覚めた男が会社という組織に見切りをつけるという展開になるのかと思いきや、ラストで箱から取り出した銃でギターを撃ち、ギターが血まみれになるところを見ると、どうやら日本のロックに絶望したのではないのかと思えてくるのである。


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『土竜の唄 潜入捜査官 REIJI』

2014-02-15 22:18:07 | goo映画レビュー

原題:『土竜の唄 潜入捜査官 REIJI』
監督:三池崇史
脚本:宮藤官九郎
撮影:北信康
出演:生田斗真/仲里依紗/堤真一/山田孝之/岡村隆史/上地雄輔/岩城滉一/大杉漣
2014年/日本

映画というメディアに制約される脚本について

 主人公の菊川玲二が仰向けの、ほぼ全裸でボンネットに縛り付けられている車のナンバーが「59-10(極道)」であるところから宮藤官九郎の脚本は凝っている。
 おそらく本作の見どころは警察学校の落ちこぼれで、巡査にはなったものの始末書ばかり書かされるほど人一倍正義感だけは強い主人公が、潜入捜査として入った暴力団の数寄矢会でいつものように正義を貫いた結果、頭角を現してしまい、最後まで警察官と気が付かれることなく、阿湖義組の若頭「クレイジーパピヨン」こと日浦匡也に誘われて、新組織に加わってしまうという皮肉にあると思うのだが、それにしては潜入捜査に入る前の菊川玲二の描写が足りないために、そのアイロニーが伝わりにくくなっている。しかしそれは脚本が原因というよりも映画による時間の制約によるものであろう。


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「パリの散歩道」の「哀愁」

2014-02-15 22:17:11 | 洋楽歌詞和訳

フィギュア羽生SP曲、5日連続1位!アルバム品切れ状態(サンケイスポーツ) - goo ニュース

 ソチ五輪のフィギュアスケート男子ショートプログラム(SP)で羽生結弦選手が使用した曲

はサンタナ(SANTANA)の「哀愁のヨーロッパ(Europa(Earth's Cry Heaven's Smile))」だと

思っていたら、ゲイリー・ムーア(Gary Moore)の「パリの散歩道(Parisienne Walkways)」

だった。ウィキペディアで調べると、「パリの散歩道」はケニー・ドーハム(Kenny Dorham)

が1963年にリリースした「ブルー・ボッサ(Blue Bossa)」のメロディーを元にしており

「哀愁のヨーロッパ」が1976年にリリースされて、「パリの散歩道」は1979年に

リリースされている。良い曲は良い曲から生まれるものである。


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『エージェント:ライアン』

2014-02-14 22:36:11 | goo映画レビュー

原題:『Jack Ryan: Shadow Recruit』
監督:ケネス・ブラナー
脚本:アダム・コーザッド/デヴィッド・コープ
撮影:ハリス・ザンバーラウコス
出演:クリス・パイン/ケビン・コスナー/キーラ・ナイトレイ/デヴィッド・ペイマー
2014年/アメリカ

アクション映画に馴染まない文学センスについて

 ストーリー展開そのものは悪くはないのであるが、例えば、主人公のジャック・ライアンの敵役で、世界経済を破綻させようと目論んでいるほどの投資会社代表のヴィクトル・チェレヴィンが簡単に財布を盗まれてしまう稚拙さを晒してしまうシーンは、それがキャサリン・ミューラーによる「ハニー・トラップ」であるとしても理解しにくいし、クライマックスにおいてチェレヴィンが密かにニューヨークに送り込んでいたアレクサンドルが時限爆弾を仕掛けた車をウォール街の中央に位置するビルの地下に留めようとしていたところをライアンが見つけ、車を移動させようとするのであるが、次のシーンにおいてライアンがイースト・リバーを目指して運転している車のバックシートにまだアレクサンドルが乗ったままであるところが、それまでの展開を省略したために笑いを誘う。
 チェレヴィンの簡素な部屋に掲げられていた絵画は1815年のイギリス・オランダ連合軍およびプロイセン軍が、フランス皇帝ナポレオン1世率いるフランス軍を破った「ワーテルローの戦い(The Battle of Waterloo)」を描いたものである。ロシアが関わった戦争ではないが、かつてナポレオン1世が1812年にロシアに侵攻してきてモスクワを制圧したことにロシア人のチェレヴィンが遺恨を持っており、アメリカを仮想敵国としてその怨念を忘れないという意味で飾っていたのであろうが、まさか自分が馬の下敷きになっている方になるとは想像していなかったであろう。ケネス・ブラナーらしい演出ではあるが、功を奏しているかどうかは微妙である。


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無知を装う質の悪い外国人

2014-02-14 00:16:09 | Weblog

デヴィ夫人、公職選挙法違反の疑いに言及 「私、外国人なので全然知らなかったの」(TVfan) - goo ニュース
田母神氏応援のデヴィ夫人、あわや第2の“ビンタ騒動”(dot.) - goo ニュース

 先の東京都知事選挙で警視庁から公職選挙法違反の疑いで警告を受けたことについて

デヴィ夫人は「SNSが解禁になったということで、ブログに書いていいのかなあと思ったら、

メルマガは違うということで(警視庁が)ちょっと教えてくださったので、あっそうですかって。

私、外国人なので全然知らなかったの」と語っているが、外国人であるならば右翼の

田母神俊雄を応援する意図が何なのかわからなくなるし、「田母神氏が都知事になれば、

東京は変わります」と言ったデヴィ夫人の言葉に反応した通りすがりの60代前半の男性に

「変わらないよ」「あんたは玉の輿でたまたまうまくいったんだろ」と言われ、確かに

インドネシアの大統領夫人にならなければ名を馳せることはなかったのであるが、

外国人扱いされると激怒するのだから質が悪い。


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『ザ・イースト』

2014-02-13 22:42:00 | goo映画レビュー

原題:『The East』
監督:ザル・バトマングリ
脚本:ザル・バトマングリ/ブリット・マーリング
撮影:ロマン・バスヤーノバ
出演:ブリット・マーリング/アレキサンダー・スカルスガルド/エレン・ペイジ
2013年/アメリカ

理想には届かない物語について

 「ザ・イースト(The East)」と呼ばれる環境テロリスト集団と、テロ活動からクライアント企業を守る諜報機関との対立構図は物語として分かりやすく、例えば、メンバーの一人であるイジーの両親が経営する工場が排出する汚水を問題として扱うことはまだしも、新薬の副作用に関して糾弾する際に、「目には目を」というスローガンの元、病気でもない発売元の会社役員たちを騙して薬を飲ませることには違和感を感じる。実際に、新薬は様々な試験を経て認証されており、その薬で助かる人たちもたくさんいるから発売されているはずで、話に無理があると思うのだが、そもそもいきなり両手を縛られて食事をさせようとする際に、口を使ってどうにか食べようと試みるジェーンを見下すように、他のメンバーたちはお互いの口に食べ物を運ぶのであるが、新入りのジェーンにそのようなずうずうしいことが出来るわけがなく、それならば最初から隣に座っているメンバーが口でスプーンを咥えてジェーンの口に食べ物を運んであげればいいわけで、そのようなことも理解できないほどイタい集団が存在することは認めなければならないだろう。環境には気を使えても「他者」には気を使えないのである。
 主人公のジェーン・オーエンが選んだ行動は、「ザ・イースト」のようなテロ活動ではなく、かと言っていくら正義ではあっても利益が発生しない活動はしない諜報機関でもない行動だった。恐らく入手したリストを手掛かりに自分と同じように潜入捜査をしているメンバーたちを集めて、怨念からではなく、利益も度外視した冷静な行動になるはずなのだが、ジェーンの行動がラストでダイジェストのように誤魔化し気味に描かれているように、果たしてそのような理想的な活動が可能なのかどうかは微妙である。例えば、『ダラス・バイヤーズクラブ』(ジャン=マルク・ヴァレ監督 2013年)で描かれているように、主人公でエイズを患ったロン・ウッドルーフが自ら人体実験をして無認可の新薬を試し、法的不備を問うくらいの気概が必要であろう。


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「人間のくず」の言い訳

2014-02-13 00:13:36 | Weblog

首相「人間のくずと報道されても気にしない」 予算委(朝日新聞) - goo ニュース
安倍首相「くず報道、気にしない」(時事通信) - goo ニュース

 東京都知事選の田母神俊雄候補の応援演説でNHK経営委員で作家の百田尚樹が

他候補を「人間のくず」と呼んだことについて、本人がフジテレビの「ワイドナショー」

で弁明していた。自分としては「人間のくず」という言葉は「どアホ」のような類の

口癖のようなものと言っていたが、確かに関西人にはさもありなんではある。

しかし「ある夕刊紙は私のことをほぼ毎日のように『人間のくず』と報道して

おりますが、私は別に気にしませんけどね」という安倍晋三首相の言い訳は

通用しない。「人間のくず」である人物が「人間のくず」と言われても反論できないが、

「人間のくず」ではない人物が「人間のくず」と言われれば気になるからである。


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『最後のマイウェイ』

2014-02-12 21:19:33 | goo映画レビュー

原題:『Cloclo』 英題:『My Way』
監督:フローラン=エミリオ・シリ
脚本:ジュリアン・ラプノー
撮影:ジョヴァンニ・フィオーレ・コルテラッチ
出演:ジェレミー・レニエ/ブノワ・マジメル/モニカ・スカッティーニ/サブリナ・セヴク
2012年/フランス

フランク・シナトラの「My Way」の「無関心」について

 伝記映画として出色の出来栄えだと思うのは、まとまりの良さだけではなく、例えば、自宅から出てくる主人公のクロード・フランソワが玄関で待ち構えている多くのファンたちに囲まれながら自家用車に乗って自分で運転し、近くにある事務所に着いて再びファンに取り囲まれながら、気分が悪くなった新入りのファンを介抱するために一緒に事務所に入るまでのシーンを、あるいは自宅から出てくるクロードが庭で催しているパーティーで妻や仲間たちに声をかけながら、再び別の入り口から自宅に戻ると何故かもう一人の息子が一人で遊んでいるシーンをワンカットで撮っているように、撮影にも工夫が見られるからである。
 厳格な父親のエメとギャンブル狂の母親のルチアに育てられたクロードが2人の要素を合わせ持つことが必要なショービジネスで頭角を現したのはごく自然な成り行きだったのかもしれない。既に亡くなっているエメにクロードが、フランク・シナトラが歌っている自分が作った曲を聴かせる幻想シーンは美しく、不慮の事故で亡くなったクロードの死をルチアにどのように知らせればいいのか戸惑う周囲の人たちの葛藤も涙を誘う。
 そのクロードの不慮の事故はクロードの、スタッフにも厳しく、酒にもドラッグにも手を出さない意外と真面目な性格が災いしたような印象を受けるのだが、結局、フランク・シナトラが自身の代表曲であるはずの「My Way」の作曲者に一度も会いに行こうとしなかったは、まさか夭逝するとは想像していなかったからだろうか?


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