MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『クライマーズ・ハイ』 90点

2008-07-21 23:19:01 | goo映画レビュー

クライマーズ・ハイ

2008年/日本

ネタバレ

‘父親’と‘息子’

総合★★★★☆ 90

ストーリー ☆☆☆☆☆0点

キャスト ☆☆☆☆☆0点

演出 ☆☆☆☆☆0点

ビジュアル ☆☆☆☆☆0点

音楽 ☆☆☆☆☆0点

 勿論この作品は1985年に群馬県御巣鷹山で実際に起きた日航機墜落事故を題材にしてはいるが、最初から最後まで一貫して流れているのは‘父親’と‘息子’の物語である。それは実際の親子に限らず会社に於ける上司(=父親)と部下(=息子)でもある。
 上司がしっかりしていなければ部下はダメになってしまうということが最初に安西が上司の命令による過酷な勤務でくも膜下出血で倒れてしまうことで描かれる。しかし全権デスクを任された悠木がりっぱな上司なのかどうかは疑わしい。彼は幼い頃に映画館で観たカーク・ダグラス主演の『地獄の英雄』(ビリー・ワイルダー監督 1951年)の影響で慎重さを信条に新聞記者を務めてきたが、その慎重さが仇となって部下の仕事を生かしきれない。クライマックスの佐山の特ダネも彼の‘ダブルチェック’で没にしてしまう。ここでポイントとなるのは悠木が回想する映画を観るシーンである。幼い彼が『地獄の英雄』を観ているのだが、カメラがパンをすると彼の横には彼の母親はいるが彼の父親はいない。その代わりに見知らぬ外国人が座っているのである。
 悠木は良い意味では慎重であるが、悪い意味では臆病な理由は自分の心の中に手本となるりっぱな父親像を持てないからであろう。自分の心を支えて持ち上げてくれる‘父親’を持てないため肝心な時に怯んでしまうのである。悠木がそのような自分に気がつくのは父親のように付き合っていた情けない男であり当然心の支えとはならない白河が社長を務める新聞社を辞職した時に、日航機が墜落する最中に何人かの父親によって書かれた家族に宛てた手紙が読まれるシーンと、悠木がロッククライミング中に落下してザイルに宙づりになった時に彼の息子の淳が岩に打っていたハーケンによって救われたシーンである。その時ようやく悠木は息子(=部下たち)によって自分が‘生かされている’ことに気がつくのである。
 だからラストシーンで悠木は、りっぱな父親像を示せるかどうかは分からないまでも、息子のことを愛していることを示して息子の心の支えになりたいために息子に会いに行くのである。息子の顔ははっきりとは映されない。それは勿論特定の息子の話ではなく息子一般に当てはまる話だからである。
 ちなみに「クライマーズ・ハイ」とは大惨事であるにもかかわらず興奮が極限状態まで達して、大惨事であることを忘れて浮かれてしまう新聞記者の心の状態を表している。


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