MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『おもいで写眞』

2021-02-13 20:03:49 | goo映画レビュー

原題:『おもいで写眞』
監督:熊澤尚人
脚本:熊澤尚人/まなべゆきこ
撮影:月永雄太
出演:深川麻衣/古川凛/高良健吾/香里奈/井浦新/今本洋子/古谷一行/吉行和子
2021年/日本

虚実入り混じった「現実の反映」について

 主人公で29歳の音更結子は故郷の富山県で一人暮らしの亡くなった祖母の遺影がピントのボケたものだったことを反省し、メイクアップアーティストの夢を諦め東京から地元に戻って市役所の援助を得て遺影を撮ろうと古びた巨大団地を奔走するのだが、なかなか了解を得られないのだが、山岸和子が思い出の場所で撮ることを条件に撮った写真が「おもいで写真」として評判になり、それをきっかけに注文が来るようになる。
 ところがかつて和菓子職人として働いていた店で写真を撮って欲しいと頼んできた男性と共にその和菓子店へ行った結子は、和菓子店の店員にそのような男性は働いていなかったと言って断られてしまうのであるが、男性の方は自分は働いていたと断固として譲らず、結局は、和菓子店に頼んで店内で写真を撮らせてもらうのである。
 このようなことが一度ではなく何度かあるのだが、よくよく考えるならば結子と幼なじみの星野一郎が学生時代に待ち合わせ場所として「町で一番おいしいたい焼き屋さん」の前にしたところ2人が一番と思っている店が違っていたために会えなかったという経験があったのである。
 結子は混乱したまま虚実入り混じった写真展を開催し、予想を超えて大盛況になったのだが、これはまさに『シチリアーノ 裏切りの美学』(マルコ・ベロッキオ監督 2019年)で引用されたミシェル・ビュトールの「見かけこそ現実の反映だ(lo sguardo è l'espressione della realità)」という言葉の証明ではないだろうか。
 写真をテーマにした作品としては『浅田家!』(中野量太監督 2020年)よりも良くできていると思うのだが、音更結子を演じた深川麻衣の演技には賛否があるようだ。例えば、山岸和子宅を訪問した際の結子のぶっきらぼうな態度や、車で撮影場所まで連れて行った柏葉雅俊を現場に置き去りにして車で帰ってきてしまうなど結子の行動はかなりエキセントリックなのだが、これは深川の演技の問題ではなくあくまでも結子というキャラクターの問題で、だから結子は東京で人間関係が上手く行かず夢破れたのであって、違和感を感じるのであるならば、それは深川の演技ではなく監督の演出の問題であろう。


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