原題:『花束みたいな恋をした』
監督:土井裕秦
脚本:坂元裕二
撮影:鎌苅洋一
出演:菅田将暉/有村架純/清原伽耶/細田佳央太/韓英恵/オダギリジョー/戸田恵子/岩松了/小林薫
2021年/日本
サブカルチャーの重要性について
おとぎ話のようなタイトルに騙されて気軽に観賞した「令和の男性」は酷い目に遭うことになるであろう。
主人公の山音麦と八谷絹が出会った2015年1月頃は2人ともまだ21歳の大学生で、日本の小説家や、お笑いコンビ「天竺鼠」や、野田サトルの漫画『ゴールデンカムイ』など好みのサブカルチャーがことごとく一致したり、偶然出会った押井守を瞬時に認識できたり、一緒にアキ・カウリスマキ監督の『希望のかなた』(2017年)を観に行ったりとお互いに恋人としては最高の相手に出会い、さらに麦が描くイラストが絹は大好きだったために交際当初は楽しい時間を過ごすことができたのだが、麦が単価の安いイラストの代わりに正社員として就職したことが2人の関係の転機になる。
最初は5時で仕事が終わるからそれから2人でこれまで通り楽しく過ごせるはずだったのだが、新人の麦は残業をこなさなければならず、いつの間にか麦はイラストを描くこともなくなり、やたらに仕事の忙しさを全ての言い訳にして、ついには本屋で前田裕二の『人生の勝算』というビジネス書を読んでいる麦を見た絹は、明らかに麦は「つまらない男」に堕したと感じたことであろう。絹が選んだ仕事を否定し、家庭に入るように促し「昭和」にしがみついているような「つまらない男」と結婚するくらいならば、いっそ独身でも構わないというのが令和の女性であり、本作を観た後、令和を生きる男性は女性に対して仕事を言い訳にできなくなるのである。
しかし残念なことに主人公2人のモノローグの過多により映画を観るという醍醐味は無く、前作『罪の声』(2020年)のような時間をかけた演出を土井裕秦監督はさせてもらえていないと思う。
ところで本作において「ピクニック」の作者である今村夏子をかなり推しており、それと比較するならば『茄子の輝き』の作者の滝口悠生の扱いが雑すぎるのだが、もちろん本人にも作品にも何も落ち度は無い。