原題:『Cléo de 5 à 7』
監督:アニエス・ヴァルダ
脚本:アニエス・ヴァルダ
撮影:ジャン・ラビエ
出演:コリンヌ・マルシャン/アントワーヌ・ブルセイユ/ミシェル・ルグラン/ドロテ・ブラン
1962年/フランス・イタリア
ユーモアに隠された実存主義について
自分が癌を患っているのではないかと思い煩いながら主治医の検査結果の報告を待っている主人公でこれまで3枚のシングルをリリースしている歌手のクレオの、1961年6月20日の夏至の日の5時から7時までの様子が描かれているのであるが、実際は5時から6時半までである。およそ90分を13チャプターで構成しており、大きな出来事はないものの、それぞれの寸劇が小気味いい。
モノクロの作品かと思いきや冒頭のシーンをカラーで撮影していたり、ミシェル・ルグランが演じる作曲家のボブのピアノが奏でるリズムに合わせてカメラをパンさせたり、その直後にクレオが絶唱したり、クレオの友人のドロテがフィルムを届けるために車を運転するシーンがコマ落としで撮影されていたり、劇中劇の短編映画でゴダールとカリーナが喜々としてコメディーを演じていたりとフランスのヌーヴェルヴァーグ時代らしい遊び心満載の作品だと思う。
しかしラストシーンは注意を払った方がいいと思う。クレオと戦地のアルジェリアから休暇で一時帰国していた軍人のアントワヌがピティエ=サルペトリエール病院内を探していると彼女の主治医が車に乗って現れ、クレオは癌を患っており、「放射線治療をすれば大丈夫」と言ってそのまま去っていくのである。現在ならば放射線治療による癌の完治もかなり高い確率になってきているが、1961年当時の放射線治療にどれほどの期待が持てていたのだろうか。
つまり癌を患うクレオと再び戦地に帰らなけらばならないアントワヌのような若者たちが死に直面しなければならないことに対して、あまりにもあっけらかんとしている彼女の主治医や忙しさにかまけている彼女の恋人のホセを初めとする富裕層のコントラストのアイロニーが本作の主題のように思うのである。