「日本という国は世界にとって、なくてはならない必要な存在」と熱く語るロジャー・パルバース氏の『もし、日本という国がなかったら』(角川書店、2019.2)を一気に読む。波瀾万丈な人生を前向きに生きてきたパルバースが見つけた安住の国は日本だった。その理由を張り裂けんばかりの熱愛で日本人に若者に訴えた書である。
日本の自然災害の歴史的多発や経済的政治的沈滞があったにしろ、「日本という国は希望と前途」があると言う。その鍵は「日本の文化の中にある」として、しばしば宮沢賢治らを登場させる。そして、うわべだけの日本カルチャーではなく、伝統的に培われてきた「日本人の振る舞いかた、態度、人間関係、ものの考え方、独自の世界を創り出す手法などが、21世紀の世界が抱える問題に対して、具体的な解決策を提供できる」と断言する。
世界の国々を渡り歩いてきた豊富な経験だけでなく、日本に定住して日本語をマスターし、日本人特有のニュアンスを観察し、伝統的日本文化を考察してきた彼の好奇心は並外れている。それだけに、著者の言葉には力が内在する。日本人にとってはこそばゆいエールも多いが、つまりはもっと反逆せよ、異議申し立ての意見を貫け、という応援歌なのだった。
著者の確信は、日本の祭り・陶芸・茶道・武道・楽器・書道・能・話芸・和食・美術など多岐な例をあげてその論拠を掲げ、日本よ自信を持てと鼓舞する。そうは言われても、敗戦国の名残か同調圧力か、もごもごしてしまう自分がいる。
そんな日本人に対して、明治の「富国強兵」ではなく現代的「富国強芸」を著者は提唱する。それが日本再生の鍵であり、世界に打って出る「外交」でもあるという。そこには、「気配り・譲り合い・無私の心・利他の精神」といったものが基底・模範になるというわけだ。いやー、現実の世界はもっと厳しいと思うけどと言い訳をしたくなる日本がいる。