それは作戦だったのです

母：セントくん、やっとお腹の調子がよくなってほっとしたよ。
せ：うん、調子よくなりましたよ。
母：ルッくんが死んで数日して、突然激しい下痢するんだもの、ホテルカコでも大変だったと思うよ。病院で診てもらったらCRPが16という恐ろしい数値になっていて、抗生剤を飲んでやっと下げたけど、下痢はずっと治らなかったからね。カコさんにお願いして病院通いしたり、大量の洗濯物に雨の日はほとほと困りました。そして、やっと食べていたフードのアレルギーではないかとわかったんだよね。このフードで、1年間ほんとにお腹の調子がよかったのにね。
せ：……そうでしたね。でもね、かあさん。
母：はい？
せ：これは作戦だったんですよ。
母：作戦とは？

せ：ルッくんとさよならする前に、僕、言われたことがあるんですよ。



セントの回想

る：セント、もうそろそろ、またアレルギーが出て来るかもな。
せ：アレルギーですか？なんで?冷凍生肉のご飯、僕好きだし、平気ですよ。
る：でもな、もう1年続けてるから、わからないぞ。
せ：えーっ、困りますよ、そんなの。
る：……それでな、もしアレルギーが出たら、どんどん母さんを困らせるんだ。我慢するな、困らせろ。
せ：困らせるんですか？僕はちびデビルのルッくんと違って天使キャラなんですよ。そんなこと…。
る：いいんだよ。それが天使のお仕事だ。


左にあるルックのお骨。お隣にあるべきお花は、今日光浴中です。

母：ふーん、そうだったんだ。確かに、ルックとさよならして、もう3週間になるけど、ルックのことをしみじみ考えている暇がなかった。
せ：僕につき合って、普段着でリビングで寝ましたね。
母：ルックのお通夜以来、続きましたな。（笑）
せ：それはルッくんの作戦だったのです。
母：ああ～、それはルックらしい。やられたね。
せ：今頃ニヤニヤ笑ってますよ、きっと。

オレは精一杯、オレらしい一生を生きただけ

散歩中にけいれんを起こし、母の腕の中でぐったりしたルックを
抱いてうちの玄関に入った時、心で聞いた声がありました。
「オレの役目は終わったぜ。」
ルックがそういっていました。

お通夜で、そのことをずっと考えていました。
先代のイヴちゃんが闘病生活の末、虹の橋を渡り
ひとりぼっちになった母さんのところに
来てくれたのがルックでした。

順風満帆だった母さんの人生航路がその３年ほど前から
先の見えない荒海の中にありました。
そして震災が来て、嵐は最悪となり、
ルックとセントくんの前でよく泣きました。

あれから5年、目の前に再び元気な明るい海が開けてきました。
嵐を越えた、母の人生の中で
最近、節目的なことがちょっとあって
だから、ルックの言葉にはよけいぎょっとしたのです。

みなさんが来てくれたお葬式から帰って、
ホテルカコへお泊まりに行ってセントくんのいない家の中、
小さな白い箱の中のルックと母だけで
ルックの遺影を眺めながら仕事をして
これは厳しいな…と正直思いました。

ルックがずっと、小さい身体で母を支えてくれていたんだ。
オレの役目は終わったって、
「もう俺がいなくても大丈夫だぜ、母さん」と言うことだったの？
ルックよ、あんたってやつはほんとに…。この悲しさはないよなと。

胸の奥に、沈んでいくような何かを感じながら
気がついたら、帰ってから何も食べてなかったので
キッチンに立ちました。
そしたら、今年に入って急に衰えたルックの足取りを思い出しました。
毎日長い坂道を、３歩あるいては休んで、ゆっくりゆっくり上ったルック。
ああ…、しんどかったよね。

そう思った時、
「だからさ、オレは精一杯生きて、ルックの役目を終えたの。
わかる？母さん。
オレは精一杯、オレらしい一生を生きただけ、
母さんの人生なんか知らんぞ。」
ルックがそういったのです。

いや、嬉しかったというか、思わず一人で笑ってしまいました。
そして胸がすっと軽くなりました。
「なんでそう意味づけをしたがるのさ？
もっとシンプルなんだよ、生きるって事は。」

ルックの性格を知り尽くしている（と思っている）母は
それがルック流の母への言葉だとよくわかります。

ずっと心に引っかかっていた
荒海の時代に母に寄り添ってくれたのに、何もできなかった
先代のイヴちゃんへの申し訳なさも
その時のルックの言葉が流してくれました。

ルック、ありがとうね。

そして、ルックからもうひとつ言われたことがあります。
それはお通夜の深夜でした。
「勉強しろよ母さん、もっと努力しろ。」
今まで母さんに、説教してくれるわんはいなかったよ。
ほんとにもう、あんたってやつは（笑涙）

私も私の人生を精一杯生きなくてはね。

みなさん、ありがとうございました

みなさん、ルックです。
長い間、ブログを読んでいただき、ありがとうございました。

僕は、今朝、母とセントと３人で散歩をしていて、途中で心臓発作を起し
みなさんとお別れすることになりました。

つたない母とセントではございますが、これからもよろしくお願いいたします。



母です。
今朝、お散歩中にルックが心臓発作を起しました。
実は去年の夏から３回目の発作でした。
１回目も２回目も、おさまった後は少しボーッとしましたが、またいつものルックになっておりましたので
正直なところ、それが心臓発作とも思っておりませんでした。
でも、今朝は、発作が1回でおさまらず、母の腕の中でぐったりしました。

あまりに突然で、まだ実感がありません。
いつものように眠っているルッくんのようです。でも、冷たいです。

ルックの体力がすごく落ちていることはよくわかっていました。
それでも毎日長い坂を登って、みんなでゆっくりお散歩できたことはほんとうによかった。
そして、みんなで一緒のときにお別れになってしまったことも、よかった。

明日はお葬式です。
桜の下のルックの写真を遺影にしようと思います。
みなさん、ありがとうございました。