朝日新聞記事「ミステリー小説ランキング 紹介」に触発されて今回借りたのが、
「ちぎれた鎖と光の切れ端/荒木あかね著」です。
二部構成で、いずれもアガサ・クリスティーの有名作品(私は未読なのですが)への
オマージュとなっているようです。前半は孤島もの、後半は連続殺人サスペンスで、
中でも特に、前半部分だけでも優れたミステリー作品として完結、成り立つところ、
一見無関係そうで、実は前半事件の延長線上にあることが徐々に明らかになる第二部
を加味することで、一連の事件の二面性がより明確化される仕掛けです。
このところ個人的には、いわゆる「孤島もの」を何作品か続けて読んでいるので、
読み始めてすぐ「またか…」と正直思いましたよ。孤島を舞台としたミステリーは、
ニュアンス的にどうしても似たり寄ったりな作風になりがちなところ、作者の方々は、
皆さん、あの手この手で趣向を凝らし、新たな可能性を見いだし、少しでも独自性を
出そうとしていることに今更ながら感心します。少し前に読んだ方丈貴恵さんの
「孤島の来訪者」などは、特殊設定をフル活用して、スリル感、サスペンス度を
増幅することに成功していました。
対して、荒木さんのちぎれた~はド直球、特殊な設定に頼らずに謎を構築していく
ので、どうしても現実的には無理が出てきそうな展開がいくつかあり、そんな偶然、
そうは起こらんやろ!と突っ込みを入れたくなる場面が時々見受けられはします。
しかしその分、SF的あるいは非科学的で突拍子もない描写がないことで、親しみ
やすく、筋書きも概ねわかりやすくなっているのが利点でしょうか。第二部の
主人公となる女性が攻撃的で、すぐキレる性格付けなのにはなかなか馴染めず、
感情移入できずにいましたが、彼女を警護する女性警官が相反するように理知的で
冷静、物語的にも、私の心的にもなごみました。
最後はページをめくる手が止まらなくなり、緊迫度高まる展開に、一気にラスト
までなだれ込みました。次作は無論のこと、旧作品も読んでみたくなりましたよ。
このところよく読ませていただいている白井智之さんの最新作、「エレファントヘッド」の
順番がようやく回ってきました。
現実逃避な白井ワールドへ引きずり込まれること必至の作品群、この作品もご多分に漏れず、
加速度を増して磨きがかかっているようです。相変わらずグロい描写は日常茶飯事で、
こちらの都合はお構いなしにレッドゾーンまで振り切っているにもかかわらず、これが
不思議なことに、あまり不快な思いをせずに読み進められるのです。語り口を間違えば、
嫌悪感しかないはずなのに… いつものことながら、よくぞこんな筋書き、トリック
(殺人手段)を思いつくものだと感心こそすれ、猟奇的な表現には目をつむれるのです。
しかもこの作品では、脳内世界や精神世界の領域にまで踏み込んでいることで、
設定がさらに細分化、高度化し、私の頭ではついていくのが大変でした。主人公の
精神科医が分裂して、時間軸がずれた世界で複数存在し、要所要所でたびたび合流、
合議して行く末を決める様子は、たとえばアニメ作品の「乙女ゲームの破滅フラグ
しかない悪役令嬢に転生してしまった…」で、ヒロインのカタリナ・クラエスが5人の
人格を駆使して脳内会議を繰り広げる場面とオーバーラップしてしまいました。
白井さんは、このアニメから着想を得たってわけではないんでしょうけどねえ。
それぞれが微妙に別人格、誰が誰なのかごっちゃになり、私の理解が追いつかず、
ついていけていない場面もありました。
事の真相が明らかになるにつれ、相当陰惨な事件だったことが判明しだします。
エグい犯罪(犯行手口)であるにもかかわらず、なぜか陰にこもらず、さらっと
読み飛ばせるのは、白井さんの筆力がなせる業か、それともポップでライトな
語り口が、残忍さ、暗さを紛れさせるのか? 朝日新聞の書評には、「持ち味の
グロさ満載なのに、なんと美しい本格ミステリーなのかとため息をつく」と
あります。
どこまで連れて行ってくれるのか、次作にも期待しかありません。