活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

新幸福論  臨床心理士 諸富祥彦さん

2009-08-29 03:59:39 | 活字の海(新聞記事編)
2009年8月28日(金) 毎日新聞夕刊 3面夕刊ワイドより
インタビュイー:諸富祥彦(臨床心理士) 
インタビュアー:國枝すみれ(毎日新聞記者)
サブタイトル :傷つくこと覚悟で本気で生きろ



以前、幸せという言葉に関するコラムを書いた

そこでは、結局幸せという言葉が表わすものは不定形であり、
人の数だけ(場合によってはそれ以上)幸せの数はある。
なんてなまとめ方で締め括った。


それに比べると、氏の幸せの定義は明確である。

氏は、幸せを以下の三つの種類に大別する。

・獲得することによって得られる幸せ。
・解脱することによって得られる幸せ。
・足るを知ることによって得られる幸せ。

※ 三つ目は、少しニュアンスが異なるかな。
  氏が書いている表現をそのまま採用すると、
  「人生のどん底をなんとか耐え、心の平安をぎりぎり保つ」
  である。

この分類の説明から、氏は自分も死にたくなった過去があり、
その時には死にたい自分を客観視する脱同一化という手法により
切り抜けることが出来た、と解説する。


この話しを聞いたインタビュワーの受けが凄い。

曰く。
私は6歳のとき「生まれてこなければよかった」という作文を
書きました。である。

6歳でそう書ける子供は、そういないだろう。
余程こまっしゃくれて…いや、早熟だったか、あるいは意味もよく
理解せず使っていたか。そのどちらかではないか?

それはともかく。

氏は、そうしたエピソードも絡めつつ、自分の人生が常にぎりぎりの
土壇場にあったことを主張する。
そして、そうした状況こそが、実はリアルな幸福感を味わうことが
出来る条件だとする。

バブルの頃のように。
景気が上り調子の頃は、日本中が浮かれていた。
そんな時代には、経済は富んでいても、人々が味わう幸福感はむしろ
チープで類型的なものであった。
そして、そうした安手の幸福感こそが、人々を幸福というものへの
意義を思索することから遠ざけてしまっていた。

それと比して。
貧しい時代にこそ、自分にとってリアルな幸福とはなんだ?という
疑問と正面から向き合えるチャンスなのだ。と。


更に。
-幸せは追い求めると逃げていくそうですね。
と、水を向けるインタビュワーの問いかけに対して。

幸せを求めても、飢餓感が肥大するだけで充足感は味わえない。
それよりも、自分がなすべきことを見出し、それに真摯に向き合う
ことで、結果として幸福は後からついてくる、と氏は回答する。

中盤までの氏の論旨展開は、概ねこうしたところである。

ここまでは、まあ判らないでもないが、そもそもその分類や分析
そのものが類型的ではないか?という思いで読んでいた。

今更、青い鳥でも無いだろう?と。


おお。
と思ったのは終盤。

-本当の幸せとは。
と、畳み掛けるインタビュワーに対して。

本気。というキーワードでもって、氏は解を出す。

恋愛でも仕事でも。

「適当にやっているうちは傷つかずにすむ。」

この言葉は、かなり応(こた)えた。

イソップのすっぱい葡萄や、キルケゴールのルサンチマンといった
先人の教えを請うまでもなく。

自己正当化。合理化。もっと端的に言うと、自己欺瞞。

これまでの人生で、一体僕はどれだけの嘘を自分についてきたのだろう。

欲しいものは、欲しい。
そう言う勇気が無いばかりに。

様々な言い訳のバリアーを脳内に張り巡らして逃げてきたことが、
一体どれだけあっただろう。


なにか。
自分の中で大きなムーブメントが起こったときに。

それに素直に乗ることを由とせず。
頭の中では、万の言い訳の嵐。
しかも、自分を知り尽くしている自分が出す言い訳だけに、
なまじ説得力が有るから性質(たち)が悪い(笑)。
正に、自己正当化。自己欺瞞である。

勿論、それで騙し通すことも出来ず、煩悶する日々を迎えることも多々。
有ったのだが。


氏は、最後にこう締め括る。

「本当の幸せは本気で生き、みじめな自分になることを覚悟した人にしか
 手にはいらないものだと思います。」


この一言で。
わが身可愛さに繰り出し続けた言い訳軍団はあっさりと瓦解。
白旗を揚げた次第である。

さて。
それに気がついた僕は。
次に何をするのだろう。

我ながら。
楽しみでもあり。
怖くもあり、だ。


(この稿、了)


(付記)
期せずして、同じような台詞を他のメディアでも目にした。

「自分が大事で大事で仕方ないのね」
「自分を賭ける価値もないんでしょ?」
「真剣に考えているのは自分が傷つかない方法だけじゃない」
「単に臆病なだけなのね」
「女にとって 自分に本気を出してくれない男なんて
                 振り向く価値もないの」

う~ん。
キラーパスの連発である。
こんな台詞を面と向かって言われたら、自意識がゲシュタルト
崩壊するぞ!(笑)

「GE(グッドエンディング)」 第1話 スターターピストルより
 作画:流石景 週刊少年マガジン掲載

まったく。
(僕らの新たな恋愛白書)なんてサブタイトルのついた漫画なんて
まず読まないのに。
これも一つのシンクロニシティ?(笑)



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