活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

雪の下の炎

2009-03-13 04:02:12 | 活字の海(書評の書評編)
著者:パルデン・ギャツォ ブッキング刊 2635円(税別)
訳者:檜垣 嗣子

※ この書評の原文は、こちらで読めます


静か過ぎる。

この静寂が意味することを考えることは、恐怖以外何者でもない。

現在、インドに亡命政府を置くチベットのダライ・ラマ14世が、
亡命を余儀なくされたチベット動乱から、先日の3月10日で
50年を迎えた。

北京オリンピックに先立って。
あの世界各地の聖火リレーの際に、国際問題ともなったフリー
チベット運動。
あの当時、あれだけ世間の耳目を集めた運動が、この春は殆ど
耳に届いてこない。

勿論、ネット等を検索すれば、それなりに情報は集まってくる。

だが。
恐らく、今この時期に、チベットのラサで行われていることを
正しく知っている西側の人は、殆どいないのではないか?

そして、それを現出せしめているのは、中国による徹底した
情報統制、もっとありていに言えば、弾圧である。



半世紀という時間。
チベットの人々は、中国による弾圧の下で、苦難の歴史を歩む
ことを余儀なくされている。

そして、それはたった今も、現在進行形で続いている現実なのだ。

中国が、如何に言葉を尽くしてチベットが内地だと国際社会に
主張し続けたとしても、この静けさこそが、そこで繰り広げられて
いることを知られたくないという中国の思いの発露である以上、
公に出来ない事柄を隠蔽している、つまりは中国の主張は理を
持たないと思われても、致し方あるまい。


どのように隠蔽しても、いずれ真実は世に滲みだす。
そう考えるほど、流石に楽天思考ではない。

何時の時代でも、真実が残るのではなく、世に残ったものが
真実となるのだから。

声無きものに、未来はないのだ。

だが。
それでも。

以前、このブログでも、ンガワン・サンドルというチベット人の
少女が、長年の間拘留され続けた悲劇を紹介
したように。

そして、今。
アムネスティによる活動が実り、ようやく自由を手にすることの
適ったパルデン・ギャツォの壮絶すぎる半生が、こうして日本でも
読むことが出来るように。


それでも、真実はどこかに残っていくことが出来るのだ、と。
そうした力を秘めているのだ、と。

どこかで、信じていたい。

勿論、夢見るだけで、それらが叶う訳も無い。
そうした、世に埋もれていく、あるいは誰かが埋もれさせようと
する真実を、丹念に掬い上げ、まとめて上梓しようとする努力を
担う人々がいるからこそ、例えクモの糸のように細い径を通して
でも、僕達は今、彼の国で何が起こっているのかを、知ることが
出来るのだ。

本書も、1998年に新潮社から出版された後、絶版となっていた。

それが本年。
復刊ドットコムを営むブッキング社による復刻版として、再び世の日を
浴びることが適った訳である。

本書を復刻させるべく、リクエストを出された人々に、感謝を。
そのことを、自身のブログで紹介してくれた福島香織記者に、感謝を。

そして。
彼の人生に触れ、感銘を受け、とうとうに本書と同名のドキュメンタリー
まで製作してしまった楽真琴監督
に、感謝を。

人は、どれだけ自らの胸に灯した思いの炎を灯し続けられるのだろう?

彼の、そして彼女達が積み上げてきた人生を思う都度、そう内省せず
にはいられない。


(この稿、了)


(付記)
ドキュメンタリー映画「雪の下の炎」は、渋谷アップリンクにて
4月11日より上映予定

同時上映は、やはりチベットを正面から取り上げた「風の馬(ルンタ)」。



雪の下の炎
パルデン・ギャツォ
ブッキング

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