活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

害虫の誕生

2009-08-09 02:31:28 | 活字の海(書評の書評編)
著者:瀬戸口明久 (ちくま新書・756円)
評者:小西聖子
本書サブタイトル:虫からみた日本史
書評サブタイトル:虫をめぐる近代日本の環境史

※ この書評の原文は、こちらで読めます



世の中には、色々なものが好きな人がいる。
昆虫も然りで、有名どころでは養老孟司氏や、故・手塚治虫氏等が
いらっしゃる。

だけれど。
ゴキブリや蚊が大好きという方は、あまりいないのではないか?
そりゃ、0では無いとは思うけれど。

その他。害虫と呼ばれるものを挙げていけば…。

飛蝗と化したイナゴ。
畳の隙間から上がりこんで、人を噛むムカデ。
シロアリ。ツェツェバエ。ダニ。etc…。
もう枚挙に暇が無いとは、このことである。


でも、である。
そもそも、それらの虫達が、わざわざ人間に害を為したいがために
この世に誕生した訳でもない。
たまたま、人間にとって、それらの虫達が害をもたらされるもので
あったというだけである。


だとすれば、害呼ばわりされることは不本意だと、それら虫達は
主張するだろうか。
もしくは、なんと言われようが、俺達は俺達のDNAの命じるまま
生きていくだけさと、クールに語るだろうか。


いずれにせよ、はっきりしているのは、害為すものとはあくまで
人間の目線に立っての判断であるということである。

更に言えば。
書評子が取り上げているように、本書の記述によれば。
そもそも、害虫という概念そのものが、日本では明治以降に根付いた
ものだそうだ。

それまでは、例えば米に害を為すウンカにしても、自然神の怒りに
よるものであり、それを治めるためにお札を貼って由とするような
文化が、明治の後半にもまだ残っていたという。

ここでは、害虫という概念は無い。
ただ。
自然神の前に畏怖し、その怒りの具現化として認識される虫達への
畏敬と畏れの念が有ったに過ぎない。

自然が畏怖の対象から克服すべき存在へとその立ち位置を変えた頃から、
人に徒為(あだな)すものは”害”であるという認識が生まれたと、
恐らく著者の思いはそこにあるのだろう。


そうした変化の果てに。
現代においては、人と害虫の関係は、如何なるものと成りしか?

本書ではページが尽きたとして語られなかったそこをこそ知りたい。
書評子は、そう述べて書評を締め括る。


だが、僕には今ひとつ、書評子の訴えがピンと来なかった。

現代における人と害虫の関係は、変わってきているに違いないと
まで、書評子は断言する。

と、すれば。
どう変わったと書評子は思っているのだろう?

昨今の環境保護(以前にも書いたが、この言葉。僕は好きではない)
運動の高まりによって、自然は克服すべきものから共生するものへと
変相を遂げたということだろうか?

人は、万物の霊長としてヒエラルヒーの頂点に君臨すべきものでは無く。
宇宙船地球号の一乗組員として、様々な動植物(その中には、勿論
害虫と呼ばれるものも含まれる)と手を取り合って生きていかねば
ならない。

概念としては、既に故・手塚治虫の「ブッダ」の中で描かれた聖者
アッサジのように、わが身を獣達に差し出すような。
そこまでの境地に、人は達したのだろうか?

総論としては判るし、共感もする。
だが。
実際に腕に蚊が止まれば叩き殺すし、(最近は見なくなったが)
部屋でゴキブリを発見すれば、滅さずにはいられないだろう。
#部屋のどこかでカサカサいう音が聞こえでもしたら。
 そう考えただけで、結構背筋にゾクゾクしたものが走る…。

結局。
人間は、自分本位の考え方しか出来ないことを認め、そこから
出来る範囲での妥協と共生を図っていくしかないのでは、と思う。

そのことは、先日紹介した「自然はそんなにヤワじゃない」にも
繋がる考えだと思う。

で、あれば。
人と害虫の関係が、明治以降の対立関係から根本的に変わることは
無いように思えるのだけれど。

著者の意見も聞きたいが、変わるに違いないと言い切った書評子の
意見を、まずは聞いてみたいものだ。

(この稿、了)


(付記)
小学校の頃に読んだ、書名も覚えていないがサイパンへ移住した人たちの
開墾記。

ご飯(恐らくは100%米ではなかったと思うが)にびっしりと蝿が
集(たか)り、それを手で必死に払いのけながら食べねばならないと
いう記述に戦慄が走ったことを、よく覚えている。

サイパンに移住した人たちは、それほどまでに過酷な環境下で
よく頑張ってサトウキビ畑等の開墾を続けたが、最後は米軍の攻撃に
よりバンザイクリフに追いつめられることとなる…。

ダイビングという趣味を持つものとして、グアムやサイパンには
何度と無く足を運んだが、行った際には必ず慰霊塔があれば
手を合わせるようにしている。

小学生の読書体験というのも、本当に人生に大きな影響をもたらす
ものだ。






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