夕焼け小焼けの 赤とんぼ
負われて見たのは いつの日か
山の畑の 桑の実を
小籠に摘んだは まぼろしか
ご存知、三木露風 作詞、山田耕作 作曲の「赤とんぼ」の一節である。
いま、篠笛でこの曲の練習をしているのだが、曲のつけ方が非常にうまいと、つくづく感心する。
日常会話には、滅多に登場しない「赤とんぼ」であるが、時たま耳にするのは、「赤とんぼ」ではなく、「垢とんぼ」が多い。赤くてかわいいトンボが、垢まみれの薄汚れたトンボに思えてならない。「赤」と「垢」は、同じ「アカ」という発音であるが、アクセントが違うのだ。
その点、山田耕作の曲は、正しい日本語のアクセントとピタリと一致している。さすが大作曲家と感心するばかりである。
近くの自然公園には、つい最近まで、オニヤンマ・ギンヤンマ・シオカラトンボなどの姿が見られた。
トンボ・ヤンマは夏季と思われがちだが、「あきつ(秋津)」の古名があるように、秋季である。
これらのトンボの姿が見えなくなり、高く澄んだ青空の下を、赤とんぼの群が、低く飛び交うようになると、それはもう全くの秋である。
それも、夕日が西の空を茜色に染める頃、赤とんぼの群は、いっそう低く低く飛んで、いまさらのように日脚が短く、暮れやすくなったことを思い知る。
赤とんぼは、もっとも季感のあるトンボといえよう。
一口に、赤とんぼと言っても、いろいろあって、秋あかね・深山あかね・夏あかねなどが普通で、眉立あかねは黒い眉斑が、牛若丸に似てかわいい。
秋あかねは、夏は高山にいて、身体の色がまだ黄色味がかっているのだが、秋になり気温が低下してくると、赤味が増し、鮮やかな茜色になり平地に戻ってくる。
「雄は赤色だが、雌は黄褐色である」と、歳時記にはある。
染めあへぬ尾のゆかしさよ赤蜻蛉 蕪 村
すぐれた画人の眼をもって、赤とんぼの微妙に色変わりする生態を見逃さないのが、ナガレイシいや、さすが蕪村である。
襟元がうすら寒くなる晩秋の、藁塚に早くも霜が白く光るような朝にさえ、忘れられたように一つ二つ飛んでいる赤とんぼ。
うろたへな寒くなるとて赤とんぼ 一 茶
これは一茶の句であるが、読み取り方により、二通りの解釈が可能であろう。
「寒くなるからといってあわてるのじゃないよ、赤とんぼさん」と、赤ちゃんに呼びかけるような、一茶の優しさを読み取るのが普通であろうが、
「寒くなるからといってあわてるのじゃないよ、まだ赤とんぼが飛んでいるじゃないか」と、自分を力づけていると見るのも面白い。
赤とんぼこの頃おむつ干すを見ず 季 己
負われて見たのは いつの日か
山の畑の 桑の実を
小籠に摘んだは まぼろしか
ご存知、三木露風 作詞、山田耕作 作曲の「赤とんぼ」の一節である。
いま、篠笛でこの曲の練習をしているのだが、曲のつけ方が非常にうまいと、つくづく感心する。
日常会話には、滅多に登場しない「赤とんぼ」であるが、時たま耳にするのは、「赤とんぼ」ではなく、「垢とんぼ」が多い。赤くてかわいいトンボが、垢まみれの薄汚れたトンボに思えてならない。「赤」と「垢」は、同じ「アカ」という発音であるが、アクセントが違うのだ。
その点、山田耕作の曲は、正しい日本語のアクセントとピタリと一致している。さすが大作曲家と感心するばかりである。
近くの自然公園には、つい最近まで、オニヤンマ・ギンヤンマ・シオカラトンボなどの姿が見られた。
トンボ・ヤンマは夏季と思われがちだが、「あきつ(秋津)」の古名があるように、秋季である。
これらのトンボの姿が見えなくなり、高く澄んだ青空の下を、赤とんぼの群が、低く飛び交うようになると、それはもう全くの秋である。
それも、夕日が西の空を茜色に染める頃、赤とんぼの群は、いっそう低く低く飛んで、いまさらのように日脚が短く、暮れやすくなったことを思い知る。
赤とんぼは、もっとも季感のあるトンボといえよう。
一口に、赤とんぼと言っても、いろいろあって、秋あかね・深山あかね・夏あかねなどが普通で、眉立あかねは黒い眉斑が、牛若丸に似てかわいい。
秋あかねは、夏は高山にいて、身体の色がまだ黄色味がかっているのだが、秋になり気温が低下してくると、赤味が増し、鮮やかな茜色になり平地に戻ってくる。
「雄は赤色だが、雌は黄褐色である」と、歳時記にはある。
染めあへぬ尾のゆかしさよ赤蜻蛉 蕪 村
すぐれた画人の眼をもって、赤とんぼの微妙に色変わりする生態を見逃さないのが、ナガレイシいや、さすが蕪村である。
襟元がうすら寒くなる晩秋の、藁塚に早くも霜が白く光るような朝にさえ、忘れられたように一つ二つ飛んでいる赤とんぼ。
うろたへな寒くなるとて赤とんぼ 一 茶
これは一茶の句であるが、読み取り方により、二通りの解釈が可能であろう。
「寒くなるからといってあわてるのじゃないよ、赤とんぼさん」と、赤ちゃんに呼びかけるような、一茶の優しさを読み取るのが普通であろうが、
「寒くなるからといってあわてるのじゃないよ、まだ赤とんぼが飛んでいるじゃないか」と、自分を力づけていると見るのも面白い。
赤とんぼこの頃おむつ干すを見ず 季 己