壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

夜のはじめ

2011年08月07日 00時04分05秒 | Weblog
        七夕や秋を定むる夜のはじめ     芭 蕉

 『赤冊子草稿』によると、野童亭での吟となっている。そうだとすれば、この家にあって、七夕の夜の気分を、十分に味わい得た、という挨拶がこめられていることになる。
 この句は、七夕についての古来の情趣から一歩出て、七夕の季節の感じに直接ふみこんでゆき、昼はまだ残暑がきびしいが、夜に入ると一段とはっきり定まってくる秋意を、確かに把握した発想である。
 芭蕉は、「はじめの夜」「夜のはじめ」の二案について迷っていた。『三冊子』によれば、
        「折々吟じ調べて、数日の後に」「究(きわま)り侍る」
 ということであった。この態度は、物の微に穿(うが)ち入る芭蕉らしさを見てとるべき好資料だと思う。

 「秋を定むる」は、本格的な秋の気分を、はっきり感じさせるの意。

 季語は「七夕」で秋。「七夕」というものの季節感をよく見定めている。

    「七夕の夜は、天の川も一段と冴えて、秋になったことをはっきりと
     感じさせるその第一夜である」


      夜の秋の数珠お不動へ戻しけり     季 己