壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

七草

2009年01月07日 20時04分00秒 | Weblog
    七日。雪間の若菜摘み、青やかにて、例はさしもさるもの、目近からぬ
   ところに、持て騒ぎたるこそ、をかしけれ。

 清少納言の『枕草子』には、正月七草のことが、このように描写されている。
 『古今和歌集』巻一には、

         君がため 春の野に出でて 若菜摘む
           我が衣手に 雪は降りつつ

 という、光孝天皇の歌が見られる。
 一月七日と、陽の数の重なった日に、七種類の青い野草を摘んで、これを羹(あつもの)にして食べると、陽気が体内に集まって、一年中の病気や災いを避けるといわれる。これは古く中国から伝わった陰陽道に基づく風習であった。
 冬枯れの野菜不足の時期に、雪間を分けて萌え出したばかりの野草を摘み集め、屋外の日光を浴びるとともに、ビタミンCを補給するということは、風流なだけでなく、栄養学的にも極めて合理的な風習といえよう。

        芹・薺・御形・繁縷・仏の座
          菘・蘿蔔これぞ七草

 芹や薺(なずな)・繁縷(はこべら)は、今さら説明の必要はあるまい。御形(ごぎょう)は母子草、仏の座はタビラコともいって、タンポポに似た草、菘(すずな)はカブラ、蘿蔔(すずしろ)は大根の別名で、前の五種は野生の雑草である。
 これを摘むのが、古歌に有名な「若菜摘み」で、宮廷では、正月最初の子(ね)の日に摘みに出て、十二種を献上したという。
 民間では「七草」を打つとき

   七草なずな、唐土の鳥が、日本の土地へ、渡らぬ先に、手に摘み入れて

 と唱えるようになった。
 唐の怪鳥・鬼車鳥というのがいて、飛びながら血を滴らしてゆく。血の染めた家は凶事がある、というのである。ひどく物騒な鳥で、日本に居ついて産女(うぶめ)と呼ばれたが、その予防策として大事な行事となったのである。「こう、すととんちゃん」といった囃しを入れ、

        七草や明けぬに婿の枕元     其 角

 と、相当時間をかけて賑やかにやるのは、魔除けの呪文だからであろう。

        薺粥箸にかからぬ緑かな     蝶 衣

 七草を整えるのには、土地によって少ないものもあり、知識も多少いるし、というので、薺と、もう一種、野菜を入れればよい、という便法を考えるようになった。これを二タ薺(ふたなずな)という。
 菘は、蕪または水菜というのが定説であるが、油菜・小松菜・杓子葉・白菜・三河島菜・広島菜・京菜・雪菜など、似たものなら何でも菘である。学問上どれも同じ植物の品種にすぎない。キャベツも同種であるという。

        天暗く七種粥の煮ゆるなり     普 羅

 陰暦正月の七日、寒は明けても寒さは厳しいそのころの朝早く、七種(ななくさ)の野草を包丁でトントンと細かく刻み、餅粥に炊き込んだ高い香りを、熱い湯気とともに啜るところは、何とも春を感じさせるではないか……。


      母とゐる湯気のやすらぎ七日粥     季 己