壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

今年の春も

2010年02月02日 22時46分46秒 | Weblog
        おもしろや今年の春も旅の空     芭 蕉

 「今年の春も」とあるので、二年ひきつづいて旅中に迎えた春ともとれるが、「いつかもそうだったが、今年もまた」という気持に解したい。旅心がしきりにきざし、それを「おもしろや」と自ら興じているのである。
 『去来文(きょらいぶみ)』の中に、
     「おもしろや今年の春も旅の空」と我叟(わがそう)のすさび、何の事やと
      えさとらぬも、ひとつのむかしとなりにたり。
 と、ある。
 「我叟」は、去来の師である芭蕉のこと。「すさび」は、気慰みのわざ、の意で、「おもしろや」の句を指す。「何の事や……」は、『奥の細道』の旅のことをさしたもの、とする説に従う。「ひとつのむかし」は、一年前、の意。

 「春」の句であるが、「春」の実質でなく、春という語にすがったところが大きい発想。

    「今年の春もまた、旅にあこがれ出ようとしているが、さてさて、この一所不住の境涯も、
     われながらおもしろく感じられることだ」


      すぐ消ゆる雪と思へばかがやけり     季 己