壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

十日戎

2009年01月09日 20時38分47秒 | Weblog
        十日戎浪花の春の埃かな     松 濱 

 関東のお酉様と似た賑やかな行事が、関西の十日戎(とおかえびす)。
 正月十日に行なわれる戎祭のことで、初戎ともいう。戎は、大きな鯛を小脇に抱えた恵比寿のことで、大黒様と双璧の七福神の代表である。金運を招く神として商人に深く信仰されている。
 十日戎は、関西の方が盛んで、京都の建仁寺の蛭子(えびす)や、兵庫の西宮戎が有名であるが、とりわけ大阪今宮の十日戎ときたら、「そらもう、えらい賑わいだす」。

        堀川の水の暗さや宵戎         月 斗
        手ぶらにて十日戎の人と会ふ     湘 子
        夜詣や十日戎の残り福         水 鳴
        三日目の十日戎となりにけり      巳之流

 正月九日の宵戎から十日の本戎。十一日の残り福(残り戎)まで、参詣の群衆は百万、不景気の今年は百万を越えると思われる。戎神社一年の経済は、この三日間で賄って余りあるという勢いだ。
 商業の都大阪の商人たちが、今年一年の商売繁昌を祈って押し寄せる人波は、広くもない境内を埋めつくして、うっかりすると踏み潰されそうな騒ぎ。

        福笹をかつげば肩に小判かな     青 邨
        福笹を置けば恵比寿も鯛も寝る    章 子

 境内や道筋に軒を並べた掛店(かけだな)では、吉兆とか福笹などと呼んで、小笹に小判や千両箱、鯛に大福帳・舛・俵などの目出度い宝を吊るした縁起物を売っている。
 「吉兆、吉兆」「吉兆、吉兆」と耳をつんざく売り声に、一杯機嫌の参詣人は、いっそう浮き浮きとして財布の紐を緩めてしまう。

        渡舟福笹あげて呼びとめし     卜 花

 拝殿や社務所の縁側では、世話人たちが、これも吉兆の笹を振って、「商売繁昌に笹持って来い」とはやし立て、参詣人も声を合わせて、その騒がしさといったらない。ましてや大阪弁だす。そのやっかましいこと……。

        宝恵籠や坐りこぼるゝ褄のはし     淡路女
        宝恵籠にのつてうれしき日もありし   智照尼
        戎籠腰を落してなまめける        草 城

 それに、十日戎の呼び物は、何といっても宝恵籠(ほえかご)。大阪南の新地の芸妓連を乗せ、紅白の布を巻いて飾り立てた駕籠が、「宝恵籠ホイ、宝恵籠ホイ」と息杖(いきづえ)振り振り、何十挺となく境内に繰り込んで、華やかな色気を撒き散らすころには、十日戎の賑わいも最高潮である。
 なお、北の新地では二十五日の初天神に、宝恵籠の練り込みを行なう。


      観音へ参る芸妓や雪もよひ     季 己