壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

寒の水

2009年01月10日 22時26分42秒 | Weblog
 太陽が黄経285度に達する日からが小寒、300度に達する日からが大寒、と理科の時間に習った記憶がある。
 今年で言えば、1月5日の小寒から1月20日の大寒を経て、2月3日の節分まで、三十日余りが寒の内である。

 昼の長さが最も短くなるのは冬至であるが、地表の輻射熱が少なくなって来るにつれて、冬至以後は、日が長くなるにもかかわらず、寒さは一段と厳しくなってくる。

        干鮭も空也の瘦せも寒の内     芭 蕉

 干鮭(からざけ)のからからにからびた鋭い形も、空也像の修行に瘦せからびたひきしまった姿も、寒の内であるという凛冽なる感じをいっそう深く厳しくするものだ、と芭蕉は言う。

 ところで、この寒の内の厳しい寒さにも、何かしら取柄というものはあるもので、これぞ天の配剤というべきか。

        見てさへや惣身にひびく寒の水     一 茶

 寒中の水は、格別に冷たい。冷たいうえに清らかで、なにか神秘的な力が宿っている、と昔から考えられていた。

        寒の水念ずるやうに飲みにけり     綾 子

 その寒の水を飲むと、風邪をひかないとか、腹の薬になるとかいって、寒中の生水を飲む習慣があった。
 寒の水自体にそのような薬効があるとは思えない。が、暑い頃の生水とは違って、消化器系伝染病の媒介をしないことだけは確かだ。

        凍豆腐今宵は月に雲多し       夏 山
        寒造り渚の如く米沈む         誓 子
        寒餅のとどきて雪となりにけり     万太郎
 その寒の水で搗いた寒の餅や、寒仕込み味噌・寒晒しの寒天・凍み豆腐・凍り蒟蒻など、寒の水を使った保存食品。さらに、日本酒も寒造りがよければ、世界に比類のない丈夫な和紙は、手もちぎれそうな冷たい寒の水で漉いたものだ。それを一茶のように「惣身にひびく」などとは、言ってはいられない。


      大寒波 夜明けの星のちぎれけり     季 己