扇にて酒汲むかげや散る桜 芭 蕉
他人のことではなく、旅中の桜狩りにおける、自らの逸興(いっきょう)ぶりを句にしたものであろう。以前の「花の蔭謡に似たる旅寝かな」や次の句などで、能に思いを寄せていたことが知られるが、それも旅心のあらわれなのであった。
「扇にて酒汲むかげ」というのは、桜の木蔭で、扇を以て酒を汲むしぐさをしている意。能とか狂言で、扇子をひろげて酒を汲むしぐさをするが、旅中のこととて携えた酒もないままに、花を見ながら興じてそれをしているのである。
「かげ」は蔭。ただし影とする説もある。
「(散る)桜」が季語で春。
「桜の木蔭に花をたのしみながら、能の趣をまねて、扇子で酒を汲むしぐさをしていると、
折しも花がこぼれかかって、ひとしお興を添えることだ」
声よくはうたはうものを桜散る 芭 蕉
落花の趣に見入っている姿である。句の発想は「扇にて酒汲むかげや散る桜」と表裏をなすような感じがある。「扇にて」は、横から自分を眺め、「声よくは」は、心中を言いあらわす発想なのである。
「声よくは」は、仮定条件を表すが、謡曲などと同じく、「は」は濁らないで読んでおく。
「うたはう」は、謡(うたい)をうたおう、の意であろう。
季語は「桜(散る)」で春。
「桜がひらひらと散っている。もし自分がよい声であったら、しかるべき謡曲の一節
なりとうたいたいところであるが……」
散る花の連綿体に似てかろし 季 己
他人のことではなく、旅中の桜狩りにおける、自らの逸興(いっきょう)ぶりを句にしたものであろう。以前の「花の蔭謡に似たる旅寝かな」や次の句などで、能に思いを寄せていたことが知られるが、それも旅心のあらわれなのであった。
「扇にて酒汲むかげ」というのは、桜の木蔭で、扇を以て酒を汲むしぐさをしている意。能とか狂言で、扇子をひろげて酒を汲むしぐさをするが、旅中のこととて携えた酒もないままに、花を見ながら興じてそれをしているのである。
「かげ」は蔭。ただし影とする説もある。
「(散る)桜」が季語で春。
「桜の木蔭に花をたのしみながら、能の趣をまねて、扇子で酒を汲むしぐさをしていると、
折しも花がこぼれかかって、ひとしお興を添えることだ」
声よくはうたはうものを桜散る 芭 蕉
落花の趣に見入っている姿である。句の発想は「扇にて酒汲むかげや散る桜」と表裏をなすような感じがある。「扇にて」は、横から自分を眺め、「声よくは」は、心中を言いあらわす発想なのである。
「声よくは」は、仮定条件を表すが、謡曲などと同じく、「は」は濁らないで読んでおく。
「うたはう」は、謡(うたい)をうたおう、の意であろう。
季語は「桜(散る)」で春。
「桜がひらひらと散っている。もし自分がよい声であったら、しかるべき謡曲の一節
なりとうたいたいところであるが……」
散る花の連綿体に似てかろし 季 己