壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

初秋

2009年08月30日 14時29分05秒 | Weblog
        初秋や畳みながらの蚊屋の夜着

 「や」+「体言止め」の、典型的な取り合わせ(二句一章)の句である。
 「初秋」は、「はつあき」と読み、「初秋(しょしゅう)」、「秋口(あきぐち)」、「新秋(しんしゅう)」、「秋初め」などとも詠む。
 暑い夏を嘆いているうちに、いつのまにか風の音、雲の流れや山の形などに、どこか秋の気配を感じる。朝夕に、今までとは違う自然の安らぎを覚える。
 暑さはまだ残っているが、かそけき秋の気配を「初秋」と詠んでいる句が多いようである。
 「畳みながら」は畳んだまま、の意。「蚊屋」は、いわゆる「蚊帳(かや)」のこと。

 庶民生活の一コマをうたって、それが境涯的なものをおのずとただよわせ、季節の微妙なうごきを人間の生活を通して探りとっている作である。
 滲透型ともいうべき、芭蕉の発想の特色をうかがう好例ということが出来る。
 なお「蚊屋」については、『春の日』に、「芭蕉翁を宿し侍りて」と前書きした「霜寒き旅寝に蚊屋を着せ申す」という如行の句が見える。
 「初秋」が季語。「蚊屋」(夏)、「夜着」(冬)は、ここでは季語として働かない。「初秋」は、人の生活に寒さを及ぼす面で使われている。

    「もう初秋のこととて、用がなくなってきた蚊帳をたたんだままにしてお
     いたが、夜が更けてくると、初秋の涼気が身に迫ってくる。そこで、た
     たんだままの蚊帳を夜着の代わりとしてかけて寝たことだ」


      初秋の瀬音ととのふ百花園     季 己