富 士
一尾根はしぐるる雲か富士の雪 芭 蕉
「一尾根はしぐるる雲か」は、実に大きく富士にふさわしい詠嘆である。この「か」のひびきは、作句者としてはなはだ大きな力を示したものである。
『三冊子』は、「早稲の香や分け入る右は有磯海(ありそうみ)」と共にこの句を出して、
師のいはく、もし大国に入りて句をいふ時は、その心得あり。……不二(ふじ)の句も、
山の姿これほどの気色にもなくては、異山(ことやま)とひとつになるべし。
と述べている。
『蕉翁句集』・『泊船集』に貞享四年の作として所収。
下五、『三冊子』には「雪の不二」、『芭蕉句選拾遺』には「雨の雪」とある。
「一尾根(ひとおね)」とは、富士山の一つの尾根。尾根は、山の稜線のことである。
季語は「雪」で冬。「しぐるる」も「時雨」の句で冬の季語。時雨が真正面から、十二分に見据えられている。
「今や富士は、全山雪をまとい、他の嶺々を圧してそびえている。どの尾根も雪であるが、
その中の一尾根に、薄暗い雲がかかっているのが望まれる。あれは時雨を降らしている
雲であろうか」
歯にしむは野沢菜漬か忘れ雪 季 己
一尾根はしぐるる雲か富士の雪 芭 蕉
「一尾根はしぐるる雲か」は、実に大きく富士にふさわしい詠嘆である。この「か」のひびきは、作句者としてはなはだ大きな力を示したものである。
『三冊子』は、「早稲の香や分け入る右は有磯海(ありそうみ)」と共にこの句を出して、
師のいはく、もし大国に入りて句をいふ時は、その心得あり。……不二(ふじ)の句も、
山の姿これほどの気色にもなくては、異山(ことやま)とひとつになるべし。
と述べている。
『蕉翁句集』・『泊船集』に貞享四年の作として所収。
下五、『三冊子』には「雪の不二」、『芭蕉句選拾遺』には「雨の雪」とある。
「一尾根(ひとおね)」とは、富士山の一つの尾根。尾根は、山の稜線のことである。
季語は「雪」で冬。「しぐるる」も「時雨」の句で冬の季語。時雨が真正面から、十二分に見据えられている。
「今や富士は、全山雪をまとい、他の嶺々を圧してそびえている。どの尾根も雪であるが、
その中の一尾根に、薄暗い雲がかかっているのが望まれる。あれは時雨を降らしている
雲であろうか」
歯にしむは野沢菜漬か忘れ雪 季 己