壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

馬より落ちて

2010年04月16日 23時02分14秒 | Weblog
          伊羅古に行く道、越人酔ひて馬に乗る
        雪や砂馬より落ちて酒の酔     芭 蕉

 この句、『合歓(ねぶ)のいびき』(明和六年刊)にある。原本は、「落ちて」の「て」が、「よ」または「そ」とまぎらわしい字体であるという。
 「落ちよ」だと興じすぎているようだし、「落ちそ」だと落ちるなと戒めている句意になる。「落ちて」には旅の心のはずみが出た、即興的な味が感じられる。

 「伊羅古(いらご)」は、愛知県渥美半島西端の岬。伊良湖岬。
 『伊羅虞紀行』(安永六年刊)には、
        一かさ高き所は卯波江坂とて、むかし越人、翁にしたがひ、酔うて馬にのられし時、
        「雪や砂馬より落ちて酒の酔」と翁の口ずさみ給ふとなん。
 とある。「卯波江」は、「宇津江」の誤聞であろうといわれ、その坂を下りた村落に「江比間」があり、古い地図には「酔馬(えひま)」とあるという。
 芭蕉は、この名に興じてこの句を詠んだのではないかと考えられている。
 季語は「雪」で冬。

    「道は海沿いの砂の道つづきで、おまけに雪が降っている。越人はついに馬から落ちて
     砂まみれ雪まみれになったが、いっそう酒の酔いを発して興じたことだ」


      凍返る橋につぶやく修行僧     季 己