壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

寒参り

2009年01月16日 20時56分03秒 | Weblog
 寒中は、信仰のシーズンでもある。
 寒参り、寒念仏(かんねぶつ)、寒行、寒施行(かんせぎょう)など、いろいろある。

        寒詣かたまりてゆくあはれなり     万太郎
        酒蔵に裸参りの支度かな        了 咲

 「寒参り」の代表は「裸参り」で、下帯一つ、素足かそれに草鞋がけで、社寺へ祈願に行く。鈴を振り、寒気よけに唐辛子を含み、夜は提灯をかざして、といった特異な行進である。
 1月10日の青島神社の「裸参り」、14日の仙台大崎八幡の「どんど焼」、同じ日の四天王寺の「どやどや」、16日の本庄の「裸祭」、20日の群馬県長野原町の「湯かけ祭」などなど、各地に勇壮な裸の祭典が知られている。
 白衣の「寒詣」もまた清らかである。

        寒垢離に滝団々とひかり墜つ     草 堂

 滝のある社寺では、「寒垢離(かんごり)」の荒行がある。文字通り、凍てつく夜気の中、しぶきをかぶって聞こえる念仏・心経・真言の声は、すさまじいまでに真剣である。

        鎌倉はすぐ寝しづまり寒念仏     たかし        

 東京ではまずないが、京都・奈良や鎌倉では、「寒念仏」・「寒題目」の潮のような声が、街中を通るのを聞くことがある。

        二三枚落葉を敷きて穴施行     暮 汀

 狐・狸などの動物に、油揚げや小豆飯を施して、福を報われようとする慣わしもあって「穴施行」・「寒施行」といった。

        雨の夜やしかもおんなの寒念仏     一 茶

 物狂おしい犬の遠吠え。寒の内の、しかも冷たい雨の夜だ。家の中では、子供たちの寝息も静まり、火鉢にかけた鉄瓶の湯がチンチンと沸きたぎり、猫も炬燵に丸くなっていようという、少し溯ったころの夜更けである。
 まあ、こんな時にと、その信心の強さに驚きもし、呆れもするのが、寒念仏の人たちである。

        寒垢離やいざまゐりさぶ一手桶     蕪 村

 信仰に基づくものも、そうでないものも、この厳寒の季節に、身心の鍛錬を目的としないものはない。
 中でも厳しいのは、寒垢離とも呼ばれる「寒行」であろう。手桶の水を頭からかぶるもの、垢離場(こりば)の滝に打たれる者、六根清浄を祈願する、いかにも激しい修行は、ふだんからの鍛錬がなくては、とうてい出来るものではない。


      足弱の母の買ふ気の冬帽子     季 己