壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

近江蚊屋

2010年07月24日 22時54分15秒 | Weblog
        近江蚊屋汗やさざ波夜の床     芭 蕉

 『六百番俳諧発句合』に「蚊屋」と題してある。この『発句合』の判詞にも「あふみ蚊屋といひて汗やさざなみといへる、又めづらかに優美なり」とあるように、近江蚊屋の名とその色から琵琶湖を連想し、その揺れ動くさまに応じて、汗をさざ波と見立て、同時に、近江の枕詞である「さざ波」の意を縁語的に働かせた発想である。軽い口調もまた談林の特色である。

 「近江蚊屋(おうみかや)」は、近江名産の蚊屋。「蚊屋」は、蚊を防ぐために、麻や木綿などで作って吊り下げて寝床をおおうもの。「蚊帳(かちょう)」ともいう。今は、「蚊屋」の文字は余り用いず、「かや」といえばもっぱら「蚊帳(かや)」の文字を用いる。今日では、一般的に蚊帳は使われなくなってきたが、幼児用の折り畳み式のものなどは、現在でも使われている。萌黄(もえぎ)色に染め、赤い縁布をつけているものが普通。蚊帳の産地としては、奈良や近江など近畿地方が有名。
 「さざ波」は、「さざ波の」「さざ波や」のかたちで近江の枕詞とされる語。
 「夜」に「寄る」を掛けてある。

 季語は「蚊屋」で夏。「汗」も夏。

    「夜の床に吊った蚊帳が揺れ動くさまは、近江蚊屋の名にふさわしく、琵琶湖
     上に風の立った感じである。そうなると、肌の汗はさしずめ、湖の〈さざ波〉が
     寄るというところであろう」


      をんな来て別のうれしさ花氷     季 己