オンマは辛いよ

~グチはゴミ箱へ、思い出は宝箱へ~

アッパ君の涙

2008年03月04日 01時17分09秒 | アッパ君の話
 昨日夕方、姑から祖母の訃報を聞いた。

 姑の実母、アッパ君の母方の祖母にあたる。

 今日の夕方から、お通夜へ行った。

 私は、祖母を嫁に来てから入院するまでの数年間しか知らない。
 姑は、6人兄弟の2番目で、長女だ。
 その長女が産んだ長男であるアッパ君を、とてもかわいがっていたという。
 だから、嫁に来た当時は、「ソンブ(孫婦)」と呼び、大事にしてくれた。

 数年後、祖母は入院し、他の親族が見舞いに来ることを頑なに拒んだ。
 それでも会いたいと、家族で見舞いに行った去年の夏、祖母は私を見て、

 「お姉ちゃん、そこ座り。」

と、言った。
 もう、私のことを「ソンブ」と呼んでくれた祖母の面影は、なかった。
 私だけではない。
 もう、姑の顔しか分からなかったのだ。
 あの日の帰り道も、アッパ君は落ち込んでいたっけ。

 お坊さんのお経を聞きながら、アッパ君から聞いた昔話を思い出していた。
 夏休みになったと同時に、祖母の家へ行ったこと。
 毎日、近所の友達とプールで泳ぎ、帰り道にスーパーでアイスクリームを買ったこと。
 家に戻ると、暗くなるまで野球。
 祖母のおいしいごはん。

 通夜が終わり、祖母の眠った棺が開けられた。
 みんな、ご飯を食べる為移動し始めていた。
 アッパ君は、最後まで動かなかった。
 私と子ども達も、無言で座っていた。
 「アッパ、お顔見てあげないと。」
 アッパ君は、よろよろと立ち上がり、「みんなで行こう」と、息子の手を引いた。
 私は、娘の手を引き、アッパ君に続いた。

 「あかん、オレ、見られへん…」
 そうつぶやいたが、祖母の顔を眺め、次の瞬間、堪えきれず嗚咽をあげた。

 子ども達は、ビックリして、きょとんとしていた。
 私は、このままいても良いのか、少し迷ったが、子ども達の手を引き、先にその場を離れた。
 私と子ども達が初めて見た、アッパ君の涙だった。

 移動して、いとこたちと酒を飲むアッパ君は、いつものアッパ君だった。
 つもる話もあるだろうし、子ども達を寝かせる為、私は一足先に帰った。

 帰り道、子ども達は素直に感想を述べた。
 「アッパ、すごい泣いてたなぁ」
 「あんたたちのハンメ(祖母)が、すごいかわいがってくれてるように、アッパも、あのおばぁちゃんにかわいがってもらってたんだよ。そのおばぁちゃんと、最後のお別れをしていたんだよ。」
 「もう、誰も死なんとってほしい。」
 息子が泣き出した。
 娘は、「わたし、ちゃんとさようならって言ったよ」と、つぶやいた。

 私も、子ども達も、今夜のアッパ君の涙を、決して忘れないだろう。