博多住吉通信(旧六本松通信)

 ブログ主が2022年12月から居住を始めた福岡市博多区住吉の生活や都市環境をお伝えします。

LBJ

2020年09月14日 | 読書・映画

 最近表題の映画『LBJ ケネディの意志を継いだ男』(2016年/ロブ・ライナー監督/アメリカ映画)を見ました。LBJとは、ジョン・F・ケネディ大統領の暗殺後に第36代アメリカ合衆国大統領に就任したリンドン・ベインズ・ジョンソン大統領のことです。米国における黒人や有色人種差別の問題からBlack Lives Matter(黒人の命は大切)の運動の盛り上がりやテニスの大阪なおみ選手の差別解消の訴えなどの背景から、非常に興味深く鑑賞することができました。なぜなら暗殺されたケネディ大統領が提案した公民権法は南北戦争後の奴隷解放宣言後1世紀近くにわたって残存した(注)黒人・有色人種の差別を解消することを目指した法案であり、ジョンソン大統領がケネディの遺志を継いでこの法案を成立させるまでがこの映画の主題だったからです。

(注)私は「残存した」という表現を使いましたが、この表現は実は正しくありません。実際には黒人差別は奴隷解放後に南部各州政府によって政策的、意図的に強化され存続したという表現が正しいからです。このことについては、ジェームス・バーダマン氏と水谷八也氏の次の論考を御参照ください。⇒ https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73862?imp=0

 ところでジョンソン大統領は暗殺されたケネディ大統領よりも地味なイメージで記憶されているような気がするのですが、ケネディが志半ばで実現できなかった公民権法、社会開発促進を目指した「偉大な社会」計画、低所得者向けのメディエイド、高齢者向けのメディケアなどの社会保障政策、そして有人月着陸を目指したアポロ計画(アポロ11号の成功の時にはニクソンに代わっていましたが)など、ケネディが提唱した政策のほとんどを実現したのはジョンソンなのです。なので実はたいへんな人物だったのだということに今更ながらに気が付きました。ケネディは公民権法を議会で通過させようとしましたが上院の抵抗にあって存命中は実現できませんでした。本来味方になるはずの民主党上院議員が反対するという始末だったからです。ジョンソンは上院議員を十年以上勤め議会をまとめる院内総務を担うなどの経験を買われてケネディに副大統領に指名されたのでした。しかしケネディが暗殺されると、人々はジョンソンが、その遺志を継ぐとは期待しなかったそうです。なぜならジョンソン自身が「抵抗勢力」の一部である南部テキサス州選出議員で、抵抗勢力の中に先輩や支持者がいるという立場だったからでした。映画の中で、そうした事情が描かれていました。ジョンソンの先輩のリチャード・ラッセル上院議員がレストランでハンバーガーをパクつきながら「隣に黒人が座っているだけでハンバーガーが不味くなる」と言います。ジョンソンは辟易して「ちょっと立ち上がって厨房を覗いてご覧なさい。大勢の黒人が料理人として働いている。黒人が作ったハンバーガーは食べるくせに隣に黒人が座るのはいやだという。あなたはひどい差別主義者だ!」といってラッセルと決別します。ジョンソンは、このラッセルの発言とジョンソン家が頼りにしている黒人の家政婦のライト夫人が、人間扱いされない差別を受けるのを見て絶対に公民権法を成立させると決意を固めます。ちなみに、このラッセルという人物は太平洋戦争末期、広島への原爆投下の直後に、トルーマン大統領に「日本へもっと原爆を落とせ。原爆が足らなければ日本への無差別爆撃をもっと徹底的にしてすべての都市を焼き払え」という電報を打った人物です。米国の人種差別主義者というのは、ちょっと私たちが想像しがたいほどに徹底しているのです。(続く)


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