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新書三昧~老境が深い

2020年07月07日 | 読書
 詩人の三木卓が、先月読んだ雑誌に今の暮らしぶりの一端を綴っていた。その中で「新書」をよく読むと書いており、新書好きにはなんだか励みに思えた。新書には実に多様な分野があり、縦横に選択できるし、コンパクトな情報源となる。もちろん「新しさ」が一つの魅力だが、十分に古く老いた方からも学べる。



 『長生き地獄』(松原惇子 SB新書)。初めて読む人だが、女性の生き方論では有名らしい。しかしなんとまあ、暗い書名だ。前半は老人医療や施設等の酷い実態、後半は安楽死や死生観が取り上げられている。「おひとり様の老後」を語ってきた著者が、今自分が年老いていく現実を見つつ、生き着く先を探している。


 この新書は2017年刊で、その前年に脚本家橋田壽賀子が「私は安楽死で逝きたい」と雑誌に寄稿し反響を読んだ。著者は同意を示しながら、我が国の制度の今後の動きには期待せず、自前の「いい死に方」を提案している。さて、同じ橋田の文章を『百歳人生を生きるヒント』(五木寛之 日経PS)でも見かけた。


 五木と言えば、「人生論」の達人と言えるほどに、四半世紀前のベストセラー『生きるヒント』を初め多くの著を出している。この新書も2017年、五木が85歳の時に出版されている。多くはないが以前読んだ内容とも重なっている。一貫して「いい生き方」の提案であり、それが結局「いい死に方」の必須条件に思える。


 年代区切りによる薦めはよくある形だが、さすがに一流作家は巧みに心を揺さぶる。実体験に裏打ちされているからだ。60代は「あきらかに究める」として「六十歳でクルマの運転をやめました」と書く。こうした断念の覚悟、一方では「歳をとったら、人前に身をさらす趣味をもつ」という根性魂が、いちいち深い。


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