すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

「最強の思想」に導かれて…

2022年07月25日 | 読書
 この研究者は初めて知った。舌津(ぜっつ)という名前そのものも今まで見たことがない。「舌」とつく名が暗示しているかのごとく、凄い文章だった。その情報量が自分になだれ込んでくるような印象を受けたのは、「七〇年代のジェンダー」という副題通り、その時代に「青春」を生きた年代の一人だからでもある。


『どうにもとまらない歌謡曲』(舌津智之 ちくま文庫)


 冒頭の一文にギュッと心を掴まれた。曰く「歌謡曲とは、おそらく、戦後の日本における最強の思想である。」それは、他の言語に関する文化と比べて、圧倒的に「浸透力」が異なるからだ。確かに確かに…。またJ-POPと称された音楽とも対象の広さにおいて違いは明らかだ。この「『教育的』効果」は無視できない。



 「恋愛と結婚」というテーマを皮切りに、次々に有名な歌謡曲が繰り出される。「瀬戸の花嫁」(小柳ルミ子)などを起点に、当時の恋愛観や結婚観が歌詞によってあぶり出される。その数や引用が見事で、それらの詞をほとんど全て知っている自分に気づくと、まさしくその「時代」に育った「価値観」の重さに驚く。


 興味深い記述はあふれるほどあるが、個人的にテーマと関わって面白かったのは「自らの『フェミニスト度』を知りたければ、デビュー当初の桜田淳子と山口百恵と、どちらの歌が好きか自問してみるとよいだろう」という箇所。後者が好きならば「フェミニズムからは遠く隔たった感性」だそうである。どうだろう。


 後半は、桑田佳祐や松本隆に関する記述が目立った。どちらにもシンパシーを感じているので実に興味深く読んだ。広い視点で歌詞を見ていなかったし、例えば「時」「時計」を取り上げても、そこには書く者唄う者の思想が表れるものだと心した。この後もしも、カラオケで何か歌う機会があれば意識するだろうなあ。
♪ 今何時? そうねだいたいね ♪

 最後に「あるアメリカ人作家がいみじくも述懐した」という、名句を書き残しておく。
 「歌の薔薇と記憶の薔薇だけは、枯れずに残る薔薇なのである」


コメントを投稿