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「かべ」に阻まれた一冊

2023年03月27日 | 絵本
 読み聞かせは、通常期に教室で行う場合と放課後子ども教室等の時とは勝手が違う。集まっている子ども層の雰囲気があるし、担当者の考え方も左右する。自由度が高かった(つまり関心を示さない子が複数)今回、なんとか語りで惹きつけようとしたが「壁」を感じ、準備したが読むのを控えたのがこれ。


『かべの むこうに なにが ある?』
(B・テッケントラップ/作 風木一人/訳) BL出版 2018.3



 中表紙に、ある一節がある。「勇気ある人たちに そして、壁のない世界に」。こうした箇所の文章はよく「○○へ捧ぐ」のような形が多い。そう考えると、勇気ある人たちに捧ぐと考えられなくもないが、少しニュアンスが違うのではないか。個人的には「勇気ある人になれ、壁のない世界にしよう」の提言に見える。


 「おおきなあかいかべがありました」から物語は始まる。その中に住む者たちは誰も外の世界を知ろうとしないが、ねずみだけは違っていた。「かべのむこうになにがあるんだろう」と考え、むこうの世界を見るために、現れた鳥と一緒に飛び越えていき、「かべ」とはいったい何なのか知ることになる。戻ったねずみは…





 登場する「らいおん」「くま」「ねこ」「きつね」は、人格や世代層の象徴や代表のように設定されていると思えた。その誰もが壁の存在を許容したり、見ないふりをしたりして、現状維持に甘んじている。明らかに人間社会の縮図を意識している。またそれは、個人の身近な暮らしの中に湧き出る感情、思考でもある。


 印象的な色遣い、シンプルなセリフ、一年生でも聴き入ってくれるだろう。しかし、数年前の高学年課題図書になっているように主題は深い。ほんの少しでも届けたいと放課後教室に持ち込んだが、そこに現れた「かべ」。これは…提示や語りだけでは越えられない。もう一つ踏み込む気力がいる。いい本に出合った。


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