新聞の読書欄に、佐藤正午の新刊書評が載っていた。同齢であるこの作家は気になる存在。手にした小説のどれもが素晴らしいと感じたわけではないが、あの『月の満ち欠け』のように心を高ぶらせてくれないかなという期待がある。読みたい。さてこのエッセイ集は9年前の発刊、現在は別版編集されているようだ。
独特の「冗長さ」についていけるかどうかは読者次第だと思う。しかし、その文体にある思考回路は、活字なのに「アナログ」に近い。つまり枝分かれしている細かい脈路に誘い込まれていくようなものだ。太い幹の存在を忘れてしまうほどに、脈路に味があったりするものだから、結局ナンナンダという場合もある。
もちろん、ハッと思わされることも少なくない。「Ⅱ作家の口福」にある「ゴミ捨て場で、ゴミ袋をあさることを結婚に見立て」(る)発想や、「Ⅲ文芸的読書」というタイトルのもとになる「話芸と文芸」の対比や類比など、やはり個性際立つ作家と言える。人の言動にある「割り切れなさ」を描くのに長けている。
紙芝居でイソップ物語を演じたこともあり、ネットで見かけたときに気になり購入した。ジャンルとしては、ビジネス、啓蒙書にあたるだろう。全部で71の物語が要約紹介され、著者がそれから学ぶことを記している。六章のキーワードは「尊重思考」「喜与思考」「楽観思考」「快生思考」「上昇思考」「行動思考」だ。
目新しいことが書いている訳ではない。ただ、短い寓話も読みとり方(視点人物の転換)によって教訓は異なると改めて思う。そして、強調されるのは「心の持ち方⇒潜在意識への働きかけ」だが、結局は「行動」が伴わなければ結実はしない。となれば最終結論は「利他」と「あきらめない」ということに尽きるか。
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