すぷりんぐぶろぐ

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貴方しか語れないこと

2008年07月05日 | 雑記帳
 作家熊谷達也氏の講演を聴いた。
 最近その著書にはまっていることもあり楽しみにしていたのだが、正直少し期待はずれだった。
 私としては氏の作品の中に描かれる「東北」や「自然環境」についての深い洞察めいた内容の話なのだろうと、勝手に予想していたのだが…
 それは全く外れて、演題は「内と外から見た学校の世界」というものであった。

 氏が教員の経験を持つことは知っていたし、おそらく依頼した方もそのあたりを慮っての決定なのだろう。
 昼下がりのいい時間帯、聴衆の中にはこっくりする者もいたような気もしたが、私自身はその人となりに興味を抱いていたので、きわめて真面目に聴いたつもりだ。
 しかし、講演としての評価は残念ながら低い。

 まずは、千人を越える人数に対する声ではないような気がした。もちろんマイクを通していて聞き取れるし口ごもったりする場面などなかったのだが、聴衆をつかみきれない印象があった。たぶん二、三百人以下なら入りやすい口調なのかもしれない。大画面等も使わない会場設定も悪かったと思う。

 教員経験者が、現役の教員に対していろいろなことを言う機会は確かにある。それはほとんどの場合、他の世界における成功者である。だから多くは学校の世界の非常識な点や理不尽さなどを説くものである。頷けることも多い。しかし、そこで語られるのは実は既に感じている、経験済みのことであったりする。
 だから、その話に力を持たせるには、よほどの工夫が必要になるのではないか…。講演においては「講師」ではなく「演者」であるような意識といったらいいのか…そんなことを考えさせられた。

 もちろん熊谷氏の話の端々に、面白いエピソードは折り込まれていた。中学生を登山に連れていくときの事前踏査の徹底など、著書を書くうえでの調査に通ずるものを感じたりした。
 しかし、だからこそ話の中身は貴方の今を、貴方しか語れないことを聴きたかったなと思ってしまう。

 その日に読み進めていたのは、『山背郷』(集英社文庫)
 解説の池上冬樹はこう書いている。

 おそらく東北の寒村やマタギの世界を書ける作家は熊谷達也しかいないだろう