SNファンタジック日報

フラメンコと音楽をテーマにファンタジーを書きつづる新渡 春(にいど・しゅん)の、あるいはファンタジックな日々の報告。

光なす双つのギター・第2話

2010-03-24 21:48:08 | 書いた話
店を埋めた客は、主役の登場を今や遅しと待っていた。
客だけではない。
店のスタッフも、同様だった。
期待と、不安と。
両方が入り混ざった空気が、店じゅうを支配していた。
ボーイのひとりが言った。
「さて、女王のご機嫌はどうかな」
「女王?」
別のボーイが聞き返す。
「おまえは知らなかったか、新入り」
最初のボーイが、したり顔で言う。
「第1部は無事に終わったけどな、このまま第2部が始まるかどうかはわからんぞ」
「なんでです?」
「なにせ、主役が気難しくてな」
「そうなんですか」
「ま、気持ちはわからんでもない」
ボーイは、いまだ無人のステージをそっと仰ぎ見る。
「オーナーがなんとか口説き落として客演を頼んだらしい。きのうの初日はなんとかうまくいったが、今日はどうかな」
「そんな、厄介な人なんですか」
「というか、ギターを選ぶんだよ。10代のころから頭角を顕して、ずっと第一線で活躍してきた踊り手だからな。並のギターじゃ満足できないんだよ」
「へええ……」
そのとき、恰幅のいい男が慌てた風情で楽屋に入っていくのが見えた。
最初のボーイが溜息をつく。
「オーナー登場か。……嫌な雲行きだな」
そのまま、しばらくの時が過ぎて。
楽屋から荒々しくオーナーが出てきた。
頬を紅潮させて。
続けて、黒髪の女性が現れた。
部屋着をまとっている。
踊りの衣裳ではない。
コメント
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