弾き手の姿は、よく見えなかった。
暗闇ではない。
逆光、というのでもない。
なのに、なぜか弾き手は見えない。その姿は、光に包まれているのだった。
男なのか、女なのか。
若いのか、年寄りなのか。
懸命に目を凝らしても、どうしてもわからなかった。
ただ、光の出どころはわかっていた。
弾き手の胸にいだかれたギター。
ダイヤモンドや水晶のような、目を射らんばかりの強いきらめきではない。
そう、聖母像のマントに施されたビーズ刺繍にも似た、包み込むような温かい輝き。
そこから発する光が、弾き手の輪郭をぼかしているのだ。
ギターが奏でる旋律は、優しい子守歌のような調べだった。
彼はしばしうっとりと、その心地よい調べに耳を傾けた。
と。
旋律が止んで、ギターを弾いていた人物が立ち上がるのが見えた。
何か、邪魔をしただろうか。
慌てる彼に、その人物が、輝くギターをすっと差し出した。
「えっ……ぼくに?」
反射的に受け取って、
──彼は、目を覚ました。
まだ朝には遠い、暗いホテルの部屋で。
(やれやれ……また、あの同じ夢か)
苦笑いして、身を起こす。ベッドの脇に置いたギターケースに手を伸ばす。留め具を開けて、自分のギターを取り出した。輝いてはいない、普通のギターを。
(なんであんな夢見るんだろ。しかもこのごろ、ほとんど毎晩じゃないか。……おいおい、しっかりしろよ、ニコラス)
彼は呆れたように、自分に言い聞かせた。
暗闇ではない。
逆光、というのでもない。
なのに、なぜか弾き手は見えない。その姿は、光に包まれているのだった。
男なのか、女なのか。
若いのか、年寄りなのか。
懸命に目を凝らしても、どうしてもわからなかった。
ただ、光の出どころはわかっていた。
弾き手の胸にいだかれたギター。
ダイヤモンドや水晶のような、目を射らんばかりの強いきらめきではない。
そう、聖母像のマントに施されたビーズ刺繍にも似た、包み込むような温かい輝き。
そこから発する光が、弾き手の輪郭をぼかしているのだ。
ギターが奏でる旋律は、優しい子守歌のような調べだった。
彼はしばしうっとりと、その心地よい調べに耳を傾けた。
と。
旋律が止んで、ギターを弾いていた人物が立ち上がるのが見えた。
何か、邪魔をしただろうか。
慌てる彼に、その人物が、輝くギターをすっと差し出した。
「えっ……ぼくに?」
反射的に受け取って、
──彼は、目を覚ました。
まだ朝には遠い、暗いホテルの部屋で。
(やれやれ……また、あの同じ夢か)
苦笑いして、身を起こす。ベッドの脇に置いたギターケースに手を伸ばす。留め具を開けて、自分のギターを取り出した。輝いてはいない、普通のギターを。
(なんであんな夢見るんだろ。しかもこのごろ、ほとんど毎晩じゃないか。……おいおい、しっかりしろよ、ニコラス)
彼は呆れたように、自分に言い聞かせた。