https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220114/k10013430241000.html
慶応大学などのグループは、脊髄を損傷して手や足が動かせなくなった患者に、iPS細胞から作った神経のもとになる細胞を移植する臨床研究の、世界で初めての手術を実施したと発表しました。 これは、慶応大学医学部の岡野栄之教授と中村雅也教授らのグループが14日、オンラインで会見を開いて発表しました。 グループは、事故などで脊髄を損傷して体が動かせなくなったり感覚がなくなったりした患者に、iPS細胞を使って神経を再生する研究を進めてきました。 今回、グループは、脊髄を損傷して4週間以内の患者に対して、iPS細胞から作った神経のもとになる細胞を200万個移植する手術を行ったということです。 脊髄損傷の患者にiPS細胞から作った細胞を移植する手術は、世界で初めてだということです。 グループによりますと、手術後の経過は順調で、1年間にわたって安全性に問題がないかなどを慎重に確認していくということで、今後さらに3人に手術を行って安全性や有効性を確認する計画だということです。 脊髄損傷は国内では毎年およそ5000人が新たに患者になるとされていて、根本的な治療法はなく、治療法の開発が待ち望まれています。 会見で慶応大学の中村教授は「大きな一歩であることは間違いないが、新たな一歩でもある。2例目、3例目と続けて、臨床に届けていきたい」と話していました。 また、岡野教授は「ここに来るまで長い時間がかかったので、1例目の手術を実施できてうれしく思っている。今後、脊髄を損傷してから時間がたった慢性期の患者への応用も含めて研究を続けたい」と話していました。 脊髄損傷とは 脊髄損傷は、背骨の中にある脳と全身をつなぐ神経が傷ついて、体が動かなくなったり、感覚が失われたりする症状がでます。 国内では10万人以上の患者がいるとされ、毎年、およそ5000人が交通事故などで新たに脊髄損傷になっているとみられています。 神経の損傷の場所や程度により、動かなくなる場所や症状の重さが異なっていて、中には自分で呼吸することも難しく、人工呼吸器が必要な人もいるということです。 脊髄のような中枢神経は一度傷つくと自然には再生せず、根本的な治療法も無いため、治療はリハビリなどが中心で、神経を再生させる再生医療の実現が待ち望まれています。略
高齢化で転倒による患者の増加懸念
脊髄損傷の原因は、転倒と交通事故が半分以上を占めているとされ、高齢化が進むにつれて、転倒による患者が増えるのではないかと懸念されています。 日本脊髄障害医学会のグループは、2018年に脊髄損傷の救急患者を受け入れる全国の医療機関を対象に調査を行いました。 それによりますと、脊髄損傷の原因は、 ▽平らな場所での転倒が38.6% ▽転落が23.9% ▽交通事故が20.1%だったということです。 1990年ごろに行われた同様の調査では、 ▽交通事故は43.7% ▽転落が28.9% ▽平らな場所での転倒が12.9%だったということで、 およそ30年間で、転倒の割合が大きく増えているということです。 グループによりますと、転倒の割合が増えた背景には、高齢化により、高齢者が増えたことが影響している可能性があるということで、転倒による脊髄損傷は、今後もさらに増えるおそれがあるとしています。