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当時のままに保存された古代の顔料採掘場、メキシコ「それは、反対側に広がる世界への入り口でした」と、キンタナロー帯水層系研究所(CINDAQ)所長、サム・ミーチャム氏は言う。
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2017年春、ミーチャム氏ともう一人のダイバーはメキシコ、ユカタン半島で、ある水中洞窟を調査していた。洞窟に入った二人は、床や天井から突き出すとがった岩をよけながら、すでに800メートルほど泳いでいたが、ここでついに幅がわずか70センチほどしかない隙間に突き当たったのだった。
狭い隙間の向こうにある空間で彼らが目にしたのは、細かい部分まで当時のままに保存された古代の景色だった。そこは1万1000年前、顔料として使うレッド・オーカーを採掘していた場所で、道具や火を使った炉までが残されていた。
研究成果は、7月3日付の学術誌『Science Advances』に発表された。オーカーは鉄分を豊富に含む顔料で、はるか昔から世界中の人々に使われてきた。この採掘場は、古代の人々がどこで、どのように顔料を手に入れていたのかを教えてくれる希少な場所の一つだ。
「古代の人々がどんな方法で鉱物顔料を集めたのかを想像することに、わたしは長い時間を費やしてきました」と、論文の執筆者である米ミズーリ大学の考古学者、ブランディ・マクドナルド氏は言う。「その現場を、これほどの保存状態で見ることができるというのは衝撃的でした」
今回の発見はまた、古代マヤ国家が勃興するより前の、アメリカ大陸最初期の人々の生活について知る貴重な機会でもある。「ナイア」と呼ばれる少女の骨格もその一つで、十数年前に顔料採掘場の近くの洞窟で発見された。彼女は1万3000年ほど前に、洞窟へ落下して死んだものと見られている。
キンタナロー州の入り組んだ洞窟系では、この他に少なくとも9人の古代人の遺骨が確認されている。それらは、約8000年前に海面上昇によって洞窟に水が入った結果、朽ちることなく残されていた。
ただし、人々が洞窟の中で何をしていたかについては、ずっと議論が続いてきた。彼らは死者を埋葬するために洞窟に来たのか、それとも真水を求めてやって来たのだろうか?
「彼らはいったい何のために地下深くに降りたのでしょうか」と、メキシコ国立人類学歴史研究所(INAH)水中考古学局長のロベルト・フンコ氏は言う。「わたしたちは今、少なくともその理由の一つを突き止めました。オーカー顔料の採掘であることを示す、非常に強力な証拠を手に入れたのです」
太古のままのタイムカプセル
採掘場発見のきっかけとなったのは、CINDAQ所属のダイバー、フレッド・デボス氏が率いる洞窟調査の授業だった。参加していた生徒の一人が、偶然、未発見のトンネルに気づいた。デボス氏とミーチャム氏はその後、改めてトンネルの調査を行った。
トンネルの先は、人間の活動の痕跡がそのまま閉じ込められたタイムカプセルだった。地面には穴がぽつぽつとあいており、ハンマーとして使われていた洞窟内生成物(石筍や鍾乳石)が散らばっていた。焼かれた石や木炭、ケルン(道しるべとして積み上げた石)が、採掘者が歩いた道を示している。
「それを見たとたん、フレッドとわたしはそこら中のものを指差し始めました。あれは自然のものではありませんし、人間以外にあんなことができるものはいません」と、ミーチャム氏は語る。
デボス氏は、カナダ、マクマスター大学の地質考古学者、エデュアード・ラインハート氏に連絡をとり、この遺跡の話をした。ラインハート氏は当初懐疑的だったものの、翌年にはメキシコに足を運び、遺物のある洞窟に潜った。後にラ・ミナ(鉱山の意)と名付けられたこの場所についてラインハート氏は、「驚くべき遺跡です」と述べている。
さらに驚くべきは、顔料の採掘が行われていたのが一つの洞窟内だけではなかったことだ。
ミーチャム氏はそれまでに潜った水中洞窟でも、奇妙なものに気づいていた。積み上げられた岩や、地面に並べられた石筍などだ。しかしユカタンの洞窟には大勢の人が潜っており、そうした奇妙な現象が古代人の仕業なのか、それとも現代人の仕業なのかは、はっきりとはわからなかったと、ラインハート氏は言う。
今回、手つかずの採掘場が見つかったことで、30キロほど離れた別の2カ所も採掘場だった可能性が高いことが確認された。放射性炭素年代測定によると、これら3カ所の採掘場は、1万2000年前から1万年前にかけて使われていたと考えられる。
「これは単発的なものではありません」と、ラインハート氏は言う。「積極的にオーカーを探し、発見し、採掘するための計画が存在したのです。この先もっと多くの採掘場が見つかるのは間違いないでしょう」