https://news.yahoo.co.jp/articles/3cd37f2857d8afea22f4cb5eeca145b23b9437ca
厚生労働省が指定する難病の一つであるパーキンソン病だが、「L-ドパ製剤」などの薬を用いた薬物療法に運動療法を組み合わせることで、長く日常生活の質を維持できるようになってきた。しかし、進行に伴って薬だけで症状を改善するのが難しくなってくることがある。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』では、そうした場合の選択肢の一つ、手術療法(デバイス療法)について専門医に取材した。
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ドパミンを補う作用が最も高く、症状に効果的なL-ドパ製剤だが、服用後、薬の血中濃度が上がってから約半分になるまでの時間(半減期)が短いという性質がある。初期には3食後に服用すれば一日中効果が持続していたのが、治療期間が長くなると次の薬を服用するまでに効果が切れてしまう。
この現象は「ウェアリングオフ」と呼ばれ、薬が効いている状態を「オン」、効果が切れてふるえなどの症状が出ている状態を「オフ」という。
薬の量や服用回数を増やせば、オフの状態は解消するが、今度は薬が効きすぎて「ジスキネジア」といってからだが勝手にくねくねと動いてしまう不随意運動が起きる。
そこで、ほかの薬を組み合わせてL-ドパの量を減らすなどして、ウェアリングオフやジスキネジアといった運動合併症を抑える。しかし、進行に伴って薬だけで症状を改善するのが難しくなってくることがある。そうした場合に選択肢となるのが、手術療法(デバイス治療)だ。
■脳深部刺激療法に薬と同様の効果
順天堂大学順天堂医院脳神経内科で、デバイス外来を担当している大山彦光医師はこう話す。
「手術というと、病気が根本的に治ると思われる方もいますが、あくまで薬物療法の代わりです。主に二つの方法がありますが、どちらもオフの状態をなくし、一日中安定した状態を保つことを目的におこないます」
一つ目の方法が、「脳深部刺激療法(DBS)」で、ドパミンが不足して起こる脳の神経回路の異常を、電気刺激によって調整する方法だ。2000年から保険適用となっている。
「ドパミンが不足すると脳の一部の回路が異常に興奮し、ブレーキがかかったように働かない状態になることで、運動症状が出ます。DBSは、回路を興奮させている電気信号を妨害する電気を流すことで、ブレーキを解除すると考えられています」(大山医師)
手術ではまず、頭がい骨に直径14ミリ程度の孔を開け、電極を通すための細い電線(リード)を挿入する。次に電線に電気信号を送るための神経刺激装置を胸部に埋め込む。一般的に脳の手術は局所麻酔、胸部の手術は全身麻酔でおこなう。
24時間持続的に電気刺激をおこなえるので、症状が安定し、薬の量を減らせる。その結果ジスキネジアが軽減する。DBSの効果は電気刺激をしているかぎり続くが、進行とともにいずれは再び薬の量を増やす場合もある。
「DBSも薬物療法も神経回路に働きかけるので、症状に対する効果は同じです。薬が効く運動症状にはDBSも効果があり、薬が効きにくい非運動症状にはDBSも効果がありません」(同)
この治療の利点は、進行に合わせて効果を最大限に出しつつ、副作用を最小限に抑えるように電気刺激の強弱を調整できることだ。
DBSを実施すると認知機能や精神症状に影響を及ぼすことがあるので、認知症や精神症状がある人には、実施できない。こうした場合にも選択できるのが、もう一つの手術療法で16年に保険適用された「レボドパ・カルビドパ経腸用液療法(LCIG:デュオドーパ)」だ。小腸に直接薬を投与することで血中濃度を一定に保つことができ、オフの時間帯がなくなる。
■小腸に持続的に薬を入れると症状が安定
小腸に薬を投与するためには、おなかに小さい穴を開けて胃ろうをつくり、そこから小腸までチューブを挿入する。このチューブに体外式のポンプをつないでジェル状のL-ドパ製剤を持続的に投与する。ただし、薬が入ったカセットをポンプに装着したり、取り外したりする作業を毎日おこなわなければならない。この作業を自分や介護者が毎日おこなえることが、治療を受けるうえでの条件となる。カセットの交換作業は医療行為ではないが、例えば将来的に施設に入所する場合、施設のスタッフに作業をおこなうことを断られることがある。するとデュオドーパは中止せざるをえない。
また、ポンプはウエストポーチやショルダーバッグにしまって携帯するので自由に動き回れるが、日常的に運動するなど活動的な人にはあまり向かない。
どちらの手術も、現在のところ実施できる病院は限られる。一般的にパーキンソン病は脳神経内科で診るが、DBSの手術は脳外科医が執刀し、デュオドーパの手術は胃の内視鏡治療ができる消化器内科医もしくは消化器外科医が担当する。つまり診療科を超えた連携が必要だ。
「DBSは認知機能が低下すると治療の適応条件から外れます。適切なタイミングで治療を受けるためにも、薬物療法による運動合併症が出てきた時点で、一度手術を実施している病院で話を聞いてみることをおすすめします」(同)
DBSやデュオドーパは、手術をおこなうため、リスクを伴う。関東中央病院脳神経内科の織茂智之医師はこう話す。
「手術が不要で注目されているのが、『レボドパ・カルビドパ皮下注製剤』です。デュオドーパと同等の効果が得られる、と期待されています」
「レボドパ・カルビドパ製剤」を持続的に皮下注射することで、血中濃度を一定に保つ治療法だ。現在、臨床試験が始まっている。