スカーレット手帖

機嫌のいい観客

『同級生』の何がそんなにすばらしかったのかという話

2016-02-22 | 映画ドラマまんが
恐れ入りました。「同級生」。封切り日に行ってきました。

すばらしい。

私、最近(よくツイッターでぼやいてますが)仕事でまあなんだかわけわからない多忙が極まっており、
今週も明後日から週末までが仕事の佳境。
とにかく細々とした調整に四六時中追われている。
そんな中公開されました本作、封切り初日が 2/20、そして本日2/22。
はやる気持ちを抑えることが出来ず、
恐るべきことに、ランチタイムつぶして仕事の合間に今日2回目観に行ったんですよ私。
だってまあ本当にすばらしかったんだもの。

きょうもまだまだ帰れないので、残業しながら感想をふりかえってみたい。
この作品、精魂籠った名作にも関わらず、いうてもニッチ層狙い撃ち作品なので、
長期間上映はあまり考えられない。
だからちょっとでも気を惹かれた人は
仕事帰りでもいいから洩れなく上映中の映画館にスライディングして頂きたいとの使命感から、
思いのたけを早急に述べて公開したいという思いでつづります。

あらすじはなんということもない。
同じ男子校に通う、タイプの違う同級生男子の交際についての話です。
佐条利人(メガネ秀才)と草壁光(モテ系バンドマン)。
私は原作を知ったのは4~5年前ぐらい。BL界では名作にも関わらず、
あんまり詳しくはなかったので認知が遅いですね。
じつは続編の「空と原」から入りまして、ハラセン(原先生)の報われないおじさんぶりには笑いました。
中村明日美子さんは非BLもよく書かれている漫画家さんで、
ちょっと暗い・凝った作風の人という印象が強かったので、
「同級生」シリーズもそういう感じなのかなと思っていたのですが、違った。
確かに影はあるけど、さわやかな風が吹いている。

そしてこの作品、読めば読むほど、もうこの
「不良×メガネBL」みたいな、
左が攻めで右が受けでキャラが一言でいうとこのタイプで、みたいな、
そういう記号で伝達できる情報以外のところがすごい作品で、
ちょっと別格だと思えてくるんですよ。ホントに文学作品のようなのです。
そんで、その原作の別格感をちゃんと今回の映画が表現している上に、
映画じゃないとできないことも付加している。すごいっすよ。
下記、ネタバレ含め書きますね。


●同級生という設定の「フラットさ」が愛おしい

『同じ制服、同じ靴、同い年で同じクラス。』

原作はこれがまあ丁寧に、リアルに感じられるようにこざっぱり描いてあると思う。
同性の同い年が集まったところでは、
不良もまじめも、バカも内気も、ある意味全員フラットである。
キャラは色々でもお互い否定し合うことはないし、イベントごとになるとわりかし団結する、
という話を女子校出身者からはよく聞くので、
そういう感じが男子校にもあるのではないか、そして男子のほうがより自意識が無い分カラッとしているのではないか。
冒頭、話のきっかけになる合唱祭なんてあんまり想像つかないですけど、
異性がいないことで逆に「ありそう」という気もする。
(いずれにしても私自身は終始一貫公立共学育ちの女なので、適当なこと言ってそこに夢を載せて見てもいるんですがね。)
勉強が出来るクールな佐条くんもバンドやって派手な見た目でモテ系な草壁くんも、
それはそれ、これはこれでフィフティフィフティ。そして二人とも結構素直に生きている。
その素直さには若さを感じるからイイネ。

そしてこの二人が恋愛関係に至っても微妙な均衡を保ちつつ、
思いあう気持ちがフィフティフィフティになるように探っていくようにも見える、
その過程がとても素敵なのでございますよ。
決してどちらかがどちらかを獲得する物語ではなく、どちらかが女の代わりではなく、
ソウルメイトを探すがごとくのお話なので、真摯でときめくのですね。
うまく言えないんですが、数あるBL同級生ものの中でもこの設定をまっすぐに捉えて、
人間関係を丹念に描き込まれているところにグッとくるのかな。


●「萌ゆる若葉」を丹念に描くのが萌える

とにかくモチーフが「萌ゆる若葉」です。
合唱曲も萌ゆる若葉、夏も空も春も、めぐる季節に葉っぱが第3の主役かというぐらいに出てくる。
新緑が紅葉が美しく描かれる。
水分たっぷりの葉っぱが青空に映えたり、雨を受けて葉がはらりと落ちたり、
赤く色づく2枚の葉が強調されたり、月夜を葉越しに映す画が出たりで、
そしていつも人物と背景がきれいに重なって世界観ができている。
まあとにかく絵がすばらしいです。どの場面も一枚絵のように色彩がきれい。
こんだけリフレインで葉っぱを出されると、
「若葉のころ」という往年のキンキキッズ主演ドラマをちょっと思い出しますね。

ていうかこの絵の作りこみには相当手間がかかっているだろうに、
前面に出てくる印象が「技術」ではなくて「気持ち」のところであるところがすごいぞ。
作り手の信念岩をも通す、という感じがすごいありまして、
さっきからもう「なんか」と「すごい」しか言ってないけどもう、
なんかすごい。


●ギター、炭酸 気持ちがはじける小さな効果音が せせせせせせ繊細

せせせせせは誤植でございません。繊細さに対する興奮の心境でございます。
これも同じくリフレインの効果ですね。
草壁と佐条の気持ちが動く瞬間に、いつも甘酸っぱい音がする。

一つはギター。
アルペジオというほどには音階がしっかりしてない、
開放した弦をはじいたあとの「キーン」という残り香ならぬ、残り音。
ギターをやっている草壁を連想もするが、彼が弾いてるエレキではない。
もっと暖かいアコギの音。それの溜息のような些細な音ですよ。

そして炭酸。
このシリーズを通じて主役のふたりが愛飲するのが「KIRIN NUDA」。
これの「しゅわしゅわ」という泡の音、ふたを開けた「ぷしゅ」という音、
ボトルの中で「ことり」と揺れ動く液体の音、
液体がこぼれたところに向かってカラカラカラ…とふたが転がっていって
コンクリの地面から液体に触れたときの「ぱちぱち」という音までも。
そんな繊細な音が聞こえるほどに穏やかで、繊細な関係なんですよ。このふたりは。
かすかな音が、二人の間の「間」を演出している。すごくない? これすごくない?
ていうか今でこそ無味の炭酸飲料てメジャーになったけど、
07~08年の段階でキーアイテムに採用する明日美子先生は本当にハイセンスですね。
そしてまあ漫画の段階では音ナシですけど、その意を汲んで
(ほんとにそんな意があったかわかんないですけどね、ごめんなさいね思い込みで)
10年越しの映像化で完璧なまでに絵と音で表現している制作陣の阿吽の呼吸というか、すごい執念を感じる。

いやー、この効果音とイメージ、
なんというか小学校国語の名作「赤い実はじけた」を彷彿とさせます。
ぜひとも携帯はマストでバイブレーションも切って、耳を澄まして聞いてほしい。
五感を研ぎ澄ますまじめな恋の音が、本当に丁寧に描かれているから。


ちなみに絵と効果音の話ばっかりしているが、
もちろん声優さんのプロのお仕事を見たな、という感もある。
BLだけどそんなにしっかりしたラブシーンはないので
(息を飲む)とか(見つめ合う)とか(セリフの間)という
この声にならない声の表現に全力注がれている感もあった。とくに佐条くん。
佐条くんはボーっとしている部分が強調されると駄目で、
何はなくとも賢そうに聞こえないといけない、
そして静かだが決して押しに弱い男ではない、というこの難しいラインが絶妙に完璧でした。(CV野島健児)

しかしとりわけ、
草壁がよっぱらった佐条を心配するシーンのあわてふためきぶりと、
あとラーメンズのセリフ回しを言うところが好きです。
あれでこの映画の草壁のことを信用したよ。(CV神谷浩史)



という感じでなんだかよくわかりませんが、とりあえずもう文章をリリースするぜ。
同級生、早めに見に行ってください。(最近締めがそればっかりだぜ)

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