気が抜けているときの、ガッテン頼み。
以前の記事(〔メモ〕被災地の高齢者における歩行困難の増加 2012/10/30)に関連して、怪しげな放送内容を思い出したので、メモ代わりに個人的に不可解と感じた点をメモしておこう。先ずは、その放送内容をNHKの番組サイトから、
女性の5割が危険領域 謎の足腰フラフラ病!
2012年10月03日放送
http://www9.nhk.or.jp/gatten/archives/P20121003.html
今、日本で知らぬ間に「あるビタミン」の不足におちいる人が増えているといいます。
その数、なんと女性の2人に1人!
しかも、その状態を放置していると、筋肉や骨に異常をきたし、足腰がフラフラに!最悪の場合、寝たきりになってしまうというのです。
名付けて“足腰フラフラ病”
・・・
知られざるビタミン不足が引き起こす「足腰フラフラ病」の実態と、超カンタンな対策をお伝えします!
上記URLの放送内容をみると、子供、若い女性、高齢者の場合についてその影響を論じていたようだ。注目すべきは、多分高齢者の場合で、そこで問題となる現象として転倒・骨折が取り上げられていた。放送内容によれば、その原因は、
ビタミンD不足 →筋力低下 →バランス能力の低下 →転倒・骨折
ということらしい。
放送内容全体を眺めると、何だか不可解と感じるのである。第一に、内容のバランスが悪いのではないだろうか。ビタミンD欠乏症の主な症状は、骨軟化症、あるいは骨粗しょう症な筈だけど、放送では「筋力低下」が強調されたものの、骨の異常の点にはほとんど触れられていなかったようである。
ビタミンDについての一般的解説をみておくと、国立健康・栄養研究所のサイト『「健康食品」の安全性・有効性情報』から、
ビタミンD解説 - 話題の食品成分の科学情報
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail221.html
E.ビタミンD不足の問題
ビタミンD不足はどのような時に起こるのか?
食事から充分な量を摂取できなかった時、消化管からの吸収が不十分な時、腎臓でビタミンD活性型 (1,25 (OH) 2D) に変換されない時、日光に当たる時間が不十分な時などにおこることがあります (11) 。
ビタミンD不足の判断基準
血中25ヒドロキシビタミンD (25-OH-D) は血液中のビタミンD代謝物の中で最も濃度が高く、ビタミン補充状態をよく反映するため、体内ビタミンDレベルの指標となっています。血中25-OH-D の基準値は15~40 ng/mL、10 ng/mL以下は潜在性ビタミンD欠乏症であると判断されます (17) 。
ビタミンDが不足すると、どのような症状が起こるのか?
ビタミンDが不足すると、カルシウムや骨代謝異常を引き起こします。代表的な症状として、子供ではくる病、大人では骨軟化症が起こることが知られています (11) (17) 。くる病になると、くるぶし、ひざ、手首などの関節が肥大して二重関節になります (17) 。しかし、最近ではビタミンD不足によるくる病はほとんど見られません。高齢者では、ビタミンD不足状態が長期間続いた場合、骨密度が低下し、骨粗しょう症や骨折のリスクが高まると言われています (11) 。 (強調は引用者)
ついでに、gooヘルスケアから、
ビタミンD欠乏症
http://health.goo.ne.jp/medical/search/10L61000.html
骨軟化症
http://health.goo.ne.jp/medical/search/109A0200.html
ビタミンD不足は、成人であれば骨の異常がメインであって、筋力低下はその他多数の一つではないのだろうか。
第二に、高齢者の筋力低下と言えば、主に加齢によるものであろう。3.11後であれば別の影響も考慮する必要があると思うのだが・・・
確かに、ビタミンDと転倒については、かつて話題になったこともあるようだ。日経メディカルの記事から、
【日本骨粗鬆症学会速報】 ビタミンDが高齢者の転倒を4割減少、Ca製剤の併用で転倒による骨折も予防--特別講演より
2003.10.11
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/hotnews/archives/271133.html
しかし、何故このタイミングでビタミンD欠乏症に着目したのかという疑問は、解けないままである。たまたまなのだろうか。例えば、ビタミンDに転倒を予防する効果でもあるのであれば理解できるのだが、この点も両論の報告があり、それほど明確ではないらしい。サイト「RICHBONE(リッチボーン)」から、
転倒予防と骨粗鬆症(4) ビタミンDの転倒予防効果/作用機序の解明
http://www.richbone.com/medical/tento_kotuso_iryo/04.htm
1. ビタミンDの骨折・転倒予防効果
・・・
現在のところ、ビタミンD投与による脆弱性骨折予防効果や転倒予防効果については、一定の見解は得られていない。・・・
想像するに、ちまたで足腰フラフラ病というか筋力低下が、何らかの理由で顕著になりつつあり、これについて安心してもらうため、わりと身近なものに関連付けてみた、ということなのであろうか。うーん、良くわからない。
第三に、これは高齢者とは直接関係ないけど、判断基準の設定に関して、いつの間にか誤魔化されるおそれがあるだろう。「ビタミンD欠乏症」は病気とみなせるけど、「ビタミンD不足」では漠然としていてよく分からないからである。国立健康・栄養研究所のサイトの上述の記事では、
基準値は15~40 ng/mL、10 ng/mL以下は潜在性ビタミンD欠乏症であると判断
となっていて、放送で触れられた基準値「20 ng/mL以下」とは開きがある。
10 ng/mL以下を基準とすると、本来これを満たす人はかなり少ないようで(約2%)、このうち関係の症状が出る人は更に少ないだろうと推定される。日経メディカルの記事から、
【日本骨粗鬆症学会速報】 日本人女性の半数はビタミンD不足、厚生労働科学研究が示唆
2003.10.11
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/hotnews/archives/271181.html
以上から岡野[登志夫氏(神戸薬科大学衛生化学研究室)]らは、血中ビタミンD濃度が10ng/ml未満の人は“ビタミンD欠乏症”、20ng/ml未満の人は“ビタミンD不足状態”とみなせると結論。「欠乏症」は全体の2.2%とわずかだが、20ng/ml未満の「ビタミンD不足状態」の人は全体の55%にも達することから、「これまで考えられていた以上に、日本人ではビタミンD不足の人が多い可能性がある」と話した。 (強調は引用者)
他方、20 ng/mL以下を基準とすると、少なくとも「ビタミンD不足」のため要治療と評価できそうな人々の数が増えるので(約半数)、好都合だと考える人々がいるのかもしれない。
ビタミンD欠乏症の話題自体はいいと思うけど、内容のバランスが悪いと、あらぬ疑念を呼び込むのではなかろうか。例えば、筋力低下については、被災地で出れば生活不活発病へ誘導できて、仮に被災地以外なら、足腰フラフラ病に誘導したい、とか。あるいは、増加しているとみられる易骨折性についてもビタミンD欠乏症のせいと言い出すための布石なのであろうか、とか。
いろいろ書いたけど、やはりなんと言っても怪しさ満点なのは、(原爆)ぶらぶら病と(足腰)フラフラ病とはなんとなく音が似ているような気がする点だろう。