〔字数制限のため分割、記事(1)からの続き、リンクはココ〕
服薬の副作用を眺めると、服薬により過食応答系が稼働する結果として、自律神経系が副交感神経優位に偏向しているという問題が起こっているように見受けられる(注5)。精神的ストレスを抱えている者であればそれによってバランスがとれるかもしれないが、もともと気分が落ち込んでいる者、抑うつの気がある者、うつ病の者などにとっては(これらの者の多くは食欲が減退しているのではなかろう)、副交感神経優位偏向が追加されることにより更に気分が落ち込んでしまうというトラブルが考えられるだろう。(注6)
実際、そのようなことが起きているのではと疑いたくなる事例がみかけられる。前出の清水氏のブログから記事を三つ:
糖尿病薬?やせ薬?GLP-1受容体作動薬の副作用 その2 自殺リスク -2023年7月12日
https://promea2014.com/blog/?p=23253 引用#20
>そして、米国食品医薬品局有害事象報告システム(FAERS)によると、2018年以降にGLP-1受容体作動薬のセマグルチドを服用している患者またはその医療提供者から自殺念慮に関する報告が少なくとも60件あり、2010年以降、GLP-1受容体作動薬のリラグルチドの使用者またはその医療提供者から自殺念慮に関する報告が少なくとも70 件あったそうです。
自殺の発生率は低いかもしれませんが、十分配慮すべき副作用です。痩せるために何も考えず使用するのは危険かもしれません。<
GLP-1受容体作動薬の自殺念慮のリスク -2024年8月26日
https://promea2014.com/blog/?p=27468 引用#21
>セマグルチドおよびリラグルチドのいずれの場合も、62.5%の症例で薬剤中止後に自殺念慮が解消しました。
セマグルチドに関連する自殺念慮についてのみRORが1.45倍でした。セマグルチド治療開始から自殺念慮発現までの平均期間は 80.39日でした。
抗うつ薬との併用例を含む分析では、セマグルチド関連の自殺念慮の報告がすべての薬剤と比較して不均衡でRORは4.45倍、ベンゾジアゼピンとの併用例を含む分析では、セマグルチド関連の自殺念慮の報告がすべての薬剤と比較して不均衡でRORは4.07倍でした。<
引用者注)ROR(Report odds ratio):報告オッズ比。
糖尿病薬?やせ薬?GLP-1受容体作動薬の副作用 その11 うつ病、不安、自殺行動のリスク -2025年1月22日
***https://promea2014.com/blog/?p=29178 引用#22
>上の表のように、6か月から5年まで、GLP-1受容体作動薬使用者の様々な精神疾患などが一貫して増加しました。GLP-1受容体作動薬を使用していない人と比較すると、全ての精神疾患のリスクは1.98倍、うつ病は2.95倍、不安は2.08倍、自殺念慮または自殺企図は2.06倍です。<
注5)注4の終りで触れたように、問題の薬の服用により全身性の抗炎症作用が出るとする報告(前出の引用#08)もある("a reduction in systemic, granulocyte precursor-driven inflammation" の部分。「顆粒球前駆細胞の誘導する全身性の炎症の減少」の趣旨)。これについては、副交感神経優位への偏向が起きているとすれば、前出の白血球の自律神経支配の法則からすれば、顆粒球の活動低下としう方向性に一致したものと推測され、違和感がなく当たり前のことではないかと思料される。
注6)上記1-Bや2-Aにおいて、膵臓、胆嚢、甲状腺などの臓器の高稼働によるトラブルの可能性を指摘したけど、自律神経の働きを踏まえると、高稼働をするための準備状態が長期に遷延することが問題なのかもしれない。なぜならば、精神的ストレスで交感神経が優位なりすぎて長期間遷延すると心身のトラブルが起こるとされているが、これはもともと高強度の運動(いわゆる「闘争・逃避反応」)の準備状態が遷延することが関係しており、実際に高強度の運動は発生していなくてもトラブルが起こるからである。
ついでに、EDの記事(引用#10)においてテストステロンの不足現象が増加するとされたいたが、テストステロンの分泌は交感神経優位と密接な関係にあるとされているので(運動すると交感神経優位モードでテストステロンも増える)、副交感神経優位偏向となれば、その分泌が減るのはある意味自然と言えるだろう。
いろいろ書き散らしてきたけど、適当にまとめに入ろう。
ヒトの身体は複雑系と思われるので、本来は過食応答系の機能も多因子制御と推測される(注7)。仮に実際に過食をしたとしても、このような制御因子が多数あるとすれば、一つの制御因子しか反応しない事象の場合には過食応答系が誤って稼働しないよう他の制御因子が負のフィードバックを働かせることになっているはすである。
注7)このような制御因子のうち最も重要なものは、山勘だと、胃腸にかかる生体力学的な作用(機械的な力)を計測している因子と思われる。しかし、生体力学的な作用の強度を測定するのはかなり難しく、定性的に存在の有無を議論できても、定量的に(より科学的に)議論するのは現在も近い将来でも難しいだろう。何故なら、力学的な作用を測定する実験系を組み上げたとしても、その系が生成する雑音なのか元々の生体力学的な作用なのか区別がつかないと思われるからだ。各種の生体力学的な機能・作用の謎については、現在の科学技術の水準では解明はほとんど期待できないだろう。
インクレチン上昇薬(GLP-1受容体作動薬)の場合、薬理的な濃度は、上述のとおり生理的な濃度の千倍近くになっているとみられる。過食応答系の起動を抑制する負のフィードバック機構があったとしても、3桁も濃度が違う状況に遭遇したとなればインクレチン超高値に引きずられ起動してしまうのではないかと思われる。1桁程度の違いでは様々な負のフィードバックが効いて何も起こらないからこそ、3桁の違いが必要なのかもしれない。
また、インクレチン上昇薬(GLP-1受容体作動薬)は、一種のホルモン補充療法と言えるだろう。非必須ホルモンの補充療法では想定外の副作用が出ることも多い印象を受ける(例:更年期障害に対する女性ホルモン補充療法、経口避妊法(いわゆるピル))。これらは多分、次の事情に起因するのではないだろうか:
- 個人の体質は様々であるため関係ホルモン分泌は常時不随意系により微調整されているが、体外から投与(注射又は服薬)となるとそのような微調整は期待できない、
- 多数の人に薬理作用の発現を確保するために(血行動態を高濃度にするため)用量が多くなりがちである。
最後に、最近読んでいる本にホルモンの役割の一般論をたまたま見かけたので引用しておこう。坪井 貴司氏著「そうだったのか!ヒトの生物学」(2018年)から:
「・・・ホルモンは、極微量でも細胞に効果があります。私たちの体を水いっぱいに張った50メートルプールに例えると、そこにスプーン1杯のホルモンがあるだけでホルモンは十分に作用します。また女性ホルモンの量は、生涯でスプーン1杯程度ともいわれています。そのため、ホルモンの分泌量は非常に厳密に調節されていて、不要になったホルモンは速やかに分解され体内から取り除かれます。また、体外や体内の環境変化に応じて適切なホルモンが分泌され、それらのホルモンによって体内環境を一定の状態に保ちます。このようなしくみのことを生体恒常性(ホメオスタシス)と呼びます。・・・」(156頁)
薬でホルモン超高値を人為的に形成して生体恒常性を乱した上で、その乱れの一部を薬効と称して囃し立て薬販売に繋げ、残りの乱れは過小評価して問題を矮小化する。現代医療の闇が際限なく広がる中、現実にはそういうことが起きているのかもしれない。このような状況では、より良いサービス提供に徹して患者第一主義であっても、考える葦にならないとそのような目的は果たせないのかもしれない。つまり:
良心的であろとしても、マニュアルくんで考えない葦では闇を見抜けない
脚注:なお、このブログ記事の内容は、以前某所の記事に投稿したコメントをベースに修正・加筆したもの(同記事を見つけるのに結構時間をとられたので(タイトルに「GLP-1」が入っていなかったでござる)、備忘録として清水氏のブログの元の記事を):
SGLT-2阻害薬に伴う急性膵炎と死亡リスク -2023年8月10日
https://promea2014.com/blog/?p=23257 引用#23