前回(ココ)からの続きでデータの整理をやっておこう。
その前に大手メディアの関連記事を紹介しておこう。東洋経済オンラインの記事から、
「福島の子ども、12人甲状腺がん」の謎
2013年06月09日
http://toyokeizai.net/articles/-/14243
サブタイトルは「がん発見率は定説の85~170倍、なのに原発事故と無関係?」となっている。個人ブログでみかけそうな程度の分析が報道された点を評価して紹介せざるを得ないのが悲しいところだろう。大手メディアにはもっとしっかり踏み込んだものを期待したいのだが・・・
福島県の甲状腺検査のこれまでの公表データの推移をまとめておくと、次のような感じになるだろう。
公表年月 (会合名) | 一次検査 | 二次検査 | 備考 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
終了 | 異変 | 対象 | 終了 | がん診断 | がん割合 | ||
人 *1 | 人 *2 | 人 | 人 *3 | 人 *4 | 人/10万 *5 | ||
2012.1月 (第5回) |
3,765 (1) |
1,143 (30.4) |
26 | - | - | - | |
同4月 (第6回) |
38,114 (11) |
13,646 (35.8) |
186 | - | - | - | |
同6月 (第7回) |
49,865 (14) |
(結果について新規公表なし) | |||||
同9月 (第8回) |
80,174 (22) |
32,003 (39.9) |
425 | 38 (8.9) |
1 (1) |
14 | |
同11月 (第9回) |
95,954 (27) |
38,327 (39.9) |
501 | 83 (16.6) |
2 (1) |
13 | |
2013.2月 (第10回) |
133,089 (37) |
55,592 (41.8) |
735 | 187 (25.4) |
10 (3) |
30 | |
同6月 (第11回) |
174,376 (48) |
75,313 (43.2) |
1,140 | 383 (33.6) |
27 (12) |
46 | |
出典)福島県の「県民健康管理調査」検討委員会の会合資料。 注) *1 下段は、総数約360千人に対する終了率(%)。 *2 異変数は、A2、B、Cの判定の合計。下段は一次検査終了者に占める異変者の割合(%)。 *3 下段は、対象者に占める終了者の割合(%)。 *4 「悪性ないし悪性疑い」の数。良性結節を除く。下段はがん診断の確定数(人)。 *5 次を10万人当たりに換算したもの: 一次終了者数×二次終了率÷がん診断数。 以下は、過去の調査に基づく数値(調査地域・年)。 |
|||||||
長崎 (2000年) *a | 250 | 2.4% | - | - | - | - | |
チェルノブイリ (1991-1996年) *b |
120,332 | 35.2% | - | - | 64人 | 53人 *6 | |
小児甲状腺がんの発症率 *c | - | - | - | 0.1~ 0.2人 |
|||
出典) *a "Urinary iodine levels and thyroid diseases in children; comparison between Nagasaki and Chernobyl." http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11789565 *b 講演「チェルノブイリ原発事故後の健康問題」 平成12年2月29日長崎大学山下俊一 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/bunka5/siryo5 /siryo42.htm *c 鈴木真一氏(福島医科大教授)談話。 注) *6 内訳は、高汚染地(ベラルーシ・ゴメリ地域。寄与度16.3%)では10万人当たり198人、それ以外の地域(寄与度83.7%)では同25人。 |
甲状腺の異変率についてみれば、以前の記事(ココ)でも触れた2000年の長崎での調査を基準に考えれば、最初から何かおかしかったのだろう。最初の公表データ(2012年1月の検討委員会第5回会合の際)で既に3割を超えていたのだから(30.4% vs 2.4%)。
同年4月の際には、1990年代のチェルノブイリの調査と同等の異変率だったのだから(35.8% vs 35.2%)、明らかにおかしいと考えるべきであろう。
甲状腺がんの発生率についてみれば、1人や2人だとなんとも言えないが、今年2月の第10回会合の際には、がん又はがん疑いとの診断が10人に達し、チェルノブイリの中程度の汚染地と同等の割合になったのだから(10万人当たり30人 vs 同25人)、明らかにおかしいと考えるべきであろう。
最後に、本来大手メディアが手がけるべき甲状腺がんの発生についての統計的分析については、他力本願でいくと、ブログ「めげ猫「タマ」の日記」から、
福島県 甲状腺癌は12人 疑いは15人―偶然に起こる確率は1.3%―
2013/06/05(水) 20:25:16
http://mekenekotama.blog38.fc2.com/blog-entry-721.html
・・・でも、福島県の方は
①癌が見つかるようになるのに4年位かかる
②機器も良くなって、以前より見つかりやすい
③比較するものがない
と説明し、異常なデータであることを認めませんでした。
「成人の発生率と同じ」
とも言っています。そこで、
①検査精度がよいので4年後に見つかる癌が見つかる。
②発生率は成人と同じとする
として、7人以上から甲状腺検査で癌が見つかる確率を計算したら1.3%でした。福島県の怪しげな説明を信じても偶然に起こるとは思えません。
ある種の前提をおいて二項分布で確率を計算したところ、確率1.3%の事象ということとなったらしい。そのような事象は滅多に起きないことだと思うが、がん疑い分を考慮に入れた上で子供の発生率を用いることにすれば、更に低い確率の事象となるであろう。つまり、福島の子供達に明らかに異常なことが起きていると考えるべきであろう。